ぱちん、ぱちん。それはまるで、泡がはじけているかのよう。小さく、けれど確かに、私の中で響いている。
 耳を澄ませば、ほら、また。
「…あ、」
「?どうかしたのか」
「…ううん、なんにも」
 おかしな奴だな、と蓮二が笑う。その顔はいかにも涼しそうだというのに、どこか柔らかい。元々細められている瞳がさらに細く見えるのも、そういうことなのだと思う。
 アイボリーのソファーに寄り掛かり、左手で鮮やかなカーマインのクッションをぎゅうと抱えて、私も笑った。
 過ぎる時間は凪いだ海のように穏やかで、だからこそ溺れてしまいそうだ、なんて思いながら。
「…ね、蓮二」
「ん?」
「手、いい?」
「…ああ」
 自分でも驚くほど弱々しい声が穏やかな海を揺らした。それは偏に蓮二の読書の邪魔をすることに対する申し訳なさ、というわけでもなく、それ以上に、触れたいと騒ぐ気持ちが急に胸の内から喉へと溢れて声を押し潰したせいだ。
 ぱたん。静かに本を閉じた蓮二の左手が、そのまま私に伸ばされる。
 ゆるく絡ませたその手の薬指から伝わるひやりとした感触に、鼻の奥がつんとした。
「蓮二の手、あったかい」
「お前の手が冷たいんだろう」
 そう言った蓮二はふ、と笑い、今度は私の、とうにクッションを落としている左手を取った。蓮二もさっきの私と同じ冷たい感触を感じているのだろうか、そんなことを考えているうちに、段々と二人の手は同じ温度になってゆく。そして、ああ、と閃いた。
 ぱちん、ぱちん。
 絶えず響くこの音は、いとしさが弾けて体のあちこちに染み渡る音だ。
「蓮二、」
「今度はどうした」
 蓮二が笑う。私も笑って、繋いだ指先に力を籠める。お揃いの指輪に冷たさを感じない嬉しさを、噛み締めるように瞼を伏せた。
「こういうの、しあわせっていうんだね」
 蓮二は、何も応えない。
 けれど、その涼しくて柔らかい顔を私の顔に近付ける気配が、睫毛の先から伝わって来る。
 ほんの少し後に落ちてくる柔らかな温もりを思って、私は小さく口の端をゆるめた。


 


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