ふわり、頼りなく散ってゆく薄紅色の花びらは、とても綺麗だからこそ余計に寂寥感を掻き立てられるものなのだと思う。
 何をするでもなくただそれらが舞い落ちる様を眺めていると、静かな足音が静寂を破った。
「やはりここに居たのか」
「蓮二、」
 その静かな足音や声の持ち主が誰か、なんて、わざわざ見なくても分かる。それでも振り返って名前を呼ぶと、蓮二は応えるように小さく笑った。この優しく見透すような、それでいて包んでくれるような笑顔が好きだ。実際、蓮二は私のことなんてお見通しだとは思うけれど。
 ぼんやりしているうちに隣に並んでいた蓮二に内心少し驚きつつ、桜って綺麗だよね、と半ば独り言のように呟く。すると何故か蓮二は普段伏せている瞼を軽く開いた。滅多に人に見せない薄茶の瞳は私を気遣うような色をしている。
「…寂しいのか」
「うん、そうだね」
「……素直だな」
 もうあとほんの少しで私たちは中学を卒業する。私や蓮二だけじゃなくて、友達のほとんどが附属高校に上がるのを知っていて尚胸が苦しくなるような寂しさを覚えるのはどうしてなのだろう。そういえば此処の桜を見に来たのも、元々その答えを探すことが理由だった気がする。
「…名前」
「んー?」
「今年の夏は、また二人で海沿いの花火大会を見に行かないか?」
「…いい、けど…急にどうしたの?」
 蓮二は私の質問には答えず、ただ私の好きな笑顔を見せただけだった。意図を理解出来ずに首を傾げる私に構うこと無くひとつ、またひとつと約束を増やしてゆく。嬉しくも脈絡を見つけられない私が疑問の声を上げるより早く、開きかけた唇は蓮二のそれによってそっと塞がれた。
「…ん、蓮二…?」
「…そんなに不安がらなくても大丈夫だ」
「……………」
「環境が変わっても俺がお前の隣にいることを変えるつもりは無いからな」
「っ、…」
 そう言うと蓮二は私の寂しさを拭うかのように顔中に唇を降らせて優しく笑う。ああやっぱり蓮二には私のことなんてお見通しなんだなあ、と頭の隅でぼんやり思いながら、そっと緑がかった黒髪に指を差し込んだ。


 


 title by narcolepsy


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