「おはよう、ひよ」
「…おはよう、ございます」
 バルコニーからの光りがまばゆいくらいに差し込んでいる、朝。私から見てすぐ左、シングルよりもちょっと大きいベッドで寝返りを打った彼に小さく笑うと、少しねぼけたような声が空気に溶けた。
「ふふ、ひよが私より起きるの遅いって珍しいね」
「…名前さんは…ああ、洗濯ですか」
「うん、朝のうちに済ませておきたくって」
 そうですか、ありがとうございます、といつもよりゆっくり呟いた彼がベッドから立ち上がるのも、同じようにゆっくりだった。
 一緒に暮らして初めて知ったことだけれど、彼は意外と朝が弱い。
 と言っても寝坊をするわけでもなく、寝起きが悪いわけでもない。ただ、標準より血圧が低いせいか、朝起きてほんのちょっとの間だけはいつものとげとげしさがなりを潜めているのだ。
 そういうところを見るとくすぐったくてつい顔がゆるゆるとほころんでしまうのは、一応彼には内緒にしている。
「名前さん、あとどれくらいかかりますか?」
「あ、今ちょうど終わったところ。ご飯作るね」
「いえ、俺が作りますよ」
「そう?じゃあ、一緒に作ろうよ」
「…焦がさないでくださいよ」
 憎まれ口に唇を尖らせても、ふっ、と音がつきそうな笑顔を浮かべるだけの彼に、もうさっきの眠たげな雰囲気はどこにもない。それでも相変わらずゆるんだ顔が直らない私は、結局彼の全部がいとおしくてしょうがないのだと思う。
「ね、若、だいすきだよ」
「……朝から恥ずかしいこと言うな」
 ぷい、とそっぽを向いたその耳は、はちみつみたいにつやつやした髪に隠れているけれど、きっとほんのり紅くなっているに違いない。そんなことを考えてこっそり笑いながらもあちこち動かしていた手は、相変わらず部屋を眩しく照らしている光りに誘われてぴたりと止まる。
 こんなに天気のいい日に家にいるだけ、というのは確かに贅沢でもあるけれど、やっぱりもったいない。
「そうだ!ひよ、ご飯食べたら本屋さん行かない?」
「そこで『出掛けよう』って言わないのが名前さんらしいですね。…まあ俺は構いませんが」
「じゃあ、約束ね」
「はいはい」
 早く起きた朝のちょっとした特権、二人で並ぶキッチン、ちゃんと名前を呼んだときは敬語を使わないでいてくれる約束。そういう何気ないひとつひとつが私のしあわせを形作っているというのは、彼といるからこそ知ったことだ。
 だからこれからも、と願う私に応えるように振り向いた彼に、楽しみだね、とただ笑った。


 


 title by まばたき


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