「名前、そろそろ起きたらどうだ」
「んー…貞治…?」
「そう、俺だよ」
 ゆさゆさと、軽く揺すられる感触で目が覚めた。とろりとろり、重たい瞼を開いて一番最初に見えた、黒く硬い髪の毛になんとなく手を伸ばす。けれどそれに触れるより早く、貞治が骨張った指で私の髪を一筋摘んで、呆れたように小さく笑った。
「ほら、寝癖が出来てる」
「…貞治みたいに髪の毛硬くないもん…」
「知ってるさ」
 ふ、とまた笑って眼鏡を押し上げた貞治が、カーテンを開けるためだろう、ベッドの脇から立ち上がった。待って、言葉にする代わりに離れかけた裾をぎゅっと掴み、どうした?と聞く声には答えず何度かその裾を引く。首を傾げながらもまた座り直してくれた貞治に、自分でも分かるくらい力の抜けた笑顔を向けた。
「ねえ貞治、一緒にお昼寝しようよ」
「…今は朝だ。それに、観たい映画があると言ったのは名前だろう」
「映画は夕方でも観れるけど、貞治とお昼寝は今しか出来ないよ?」
「…全く…仕方ないな」
 はあ、と軽く溜息を零してはいてもどことなく柔らかいその表情に、怒ってはいないことが分かって嬉しくなった。
 小さなベッドは貞治が寝転がるとうんと狭くなってしまったけれど、その窮屈さも幸せに思いながら、分厚い眼鏡をそうっと外す。呆れた?くすくす笑いながら聞くと、そんなことは無いよ、なんて目を細めて私の頭を撫でてくれる掌はただ穏やかで、どうしようもなく眠気を誘う。
 やがて引きずり込まれるように沈んでゆく意識の中、今度は私が起こしてあげる番だよね、とふわふわ浮き立つような気持ちで思いながら、起きたときよりも重たい瞼をゆっくりと伏せた。


 


 title by みみ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -