「あ、俄雨ー、これも」
カタンとシンクに置かれた可愛いお弁当箱(と云ってもこれは僕が選んであげたもの)泡のついたスポンジを持ったまま「たまには自分でやったらどうです、」と彼女を見遣った。「だって俄雨がぜんぶやっちゃうから」と笑う彼女が僕と雷光さんの居る此処に来てからもう2ヶ月が経つ。長いようで短いその間に我が家の食費は倍になった。それもこれも彼女がよく食べるからである。人が一人増えただけで食費が倍にまで膨れ上がるなんて、一体我が家はこの先どうなってしまうのだろう。ああ、家計簿を見るのが怖い…!
「ねえねえ俄雨、今日の夜ご飯はなあに?」
そんな僕の気持ちなんか露知らず、彼女はいつものように今日の夕餉についての質問をした。あのですねえ、そんな貴女のおかげでうちの家計は火の車なんですよ?わかってますか?これじゃまるで何処ぞやのチキン頭さん宅じゃないか!
「雷光さん、今日の夕食はなにがいい?」
「そうだね、私は和食がいいな」
「私、俄雨のつくった煮物すきー」
へらり、笑ってそんなことをのたまう彼女に「きみは俄雨の料理が本当に好きだものね」と優しげに微笑む雷光さんが麗しい。その言葉に頷く彼女を見ていて悪い気はしないけれど、そろそろ食べ過ぎには注意していただかなければ。痛む胸を宥め乍ら僕は彼女に向き直る。そして僕ら、眼があって、
「今日もお弁当美味しかったよー。やっぱり俄雨の料理がいちばんだね」
僕は気付く。この2ヶ月間、彼女は僕の作ったお弁当を食べ残さず綺麗に完食してきていたことを。ああ、箱を洗う時僕はいつもそれが嬉しかったというのに!
「……今日の夕餉は肉じゃがですよ」
お望み通り和食にしよう、しかたない…。嬉しそうに雷光さんと顔を見合わせてから「じゃあ芋と玉葱とってくるねー」と玄関に向かった彼女の背中を見て僕は小さく溜め息を吐いた。
少年Aの憂鬱
(ああ、明日のお弁当のおかずも考えなくちゃ!)(はあ…まだまだ僕も甘いようです、雷光さん)
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