あけまして新年。1月1日。つまりは元日。年の始めから引きこもる気満々。そんな私の平穏を打ち壊す輩が約2名。


「よし、なまえ!初詣に行くぞ!」

「絶対嫌です」

「くひひ!言うと思ったよ!」


年が明けても、この二人は相変わらずだった。


「何を言うか!日本人なら元旦は初詣に決まってるだろう!」

「じゃあもうルーマニア人でいいです」

「なんでそこでルーマニア人になるかねぇ」

「神様にお願いもできるし、おみくじも引けるんだぞ!」

「そんなに行きたいなら一樹先輩ひとりで行けば良いじゃないですか。私は嫌です」

「だってさ、一樹。どーする?」

「駄目だ!こういうのはみんなで行かなきゃ意味がないんだ!」

「別に今日じゃなくても良いじゃないですか」

「一樹は今日が良いんだってさ。一度言ったら聞かない性格だから、諦めた方が良いんじゃない?」

「嫌ですよ。人いっぱいいるし」

「安心しろ!迷わないように俺がずっと手を繋いでいてやる!」

「んじゃ俺も〜」

「お断りします」


なにが悲しくて初詣なんか行かなきゃならないのか。あんな人ごみのなかに行ったら人酔いしてしまう。そんなのは御免だ。断固拒否する私の肩をがしっと掴んで、一樹先輩は喚きだした。


「なまえ、おまえ…いつからそんな子になったんだ!!父ちゃん悲しいぞ!!」

「私には一樹先輩がいつから私の父親になったのかがわかりません」

「じゃ、俺はなまえの従兄弟ね」

「嫌ですよ、こんな血縁」

「うわ、血筋を否定された!!」


オーバーリアクションな桜士郎先輩を押し退けつつ、私は一樹先輩に言う。


「とにかく、私は行きません。人酔いしてお二人に迷惑をかけるのは明白ですから」


年明け早々に迷惑かけるなんてとんでもない話だ。なのでお断り。しかし、一樹先輩と桜士郎先輩はがしりと私の両腕をつかんで歩きだした。


「え、ちょ…二人とも…」

「だったら尚更だな!」

「はあ?」

「くひひっ!俺達はね、なまえ。今年もたくさんなまえのお世話がしたいのよ」

「そうだ。おまえがどんなに嫌がっても、俺達はおまえの面倒を見る!」

「だから、人酔いしても全然大丈夫だよん」

「だ、大丈夫って…」


全然理由になってないんですけど。戸惑う私を置き去りにして、二人はずんずんと進んで行く。迷いなんてないかのように。


「とりあえず、行ったら参拝して甘酒でも貰おっか」

「そうだな。おみくじも引くぞ」

「あ、清酒でも良いなぁ」

「未成年ですよ」

「いーの、いーの。こういうのは無礼講でしょ?」

「駄目だ!生徒会長様の前で気軽に法を犯そうとするな、この馬鹿!」

「馬鹿って酷いなぁ。ねえ、なまえ?」

「自業自得です」

「えーっ。ひどいー」

「ああ、絵馬も書かなきゃなあ。三人でひとつの絵馬にするか」

「おっけー」

「…ご自由に」


てんでばらばらの三人で、雪の降り積もった道を歩く。空は青。澄んだ空気。新しい気持ち。


「……一樹先輩、桜士郎先輩」

「どうした?」

「なーに?」

「…今年もよろしくお願いします」


できるだけ迷惑はかけたくないけれど、きっとまたいつものように頼ってしまう日もあるだろう。そんな無力な私を、どうか見捨てないで欲しい。頭をさげた私に聞こえてきたのは笑い声。顔をあげたら、二人の優しい笑顔があった。


「ああ、もちろんだ」

「こちらこそ、今年もよろしくね」


繋がれた手を更に強く握って、私は新年の一歩を踏み出した。




(これからもどうぞよろしく)