クーラーの効いた資料室でぐでーっと伸びているいま。暑い。日差しがやばい。人類を殺しにかかってる。こんな日は屋上庭園より資料室だ。ここの主はおれ以上にぐうたらだから罪悪感とか全くないし。快適な隠れ家である。


「オイコラ不良。なにひとの部屋で寛いでんだ」

「日差しに殺される前に避難してきたんだっつーの……あぢー…」

「此処はおまえの休憩所じゃねーぞ」

「隠れ家だろ」

「もっと質悪ぃ」


苦虫を噛み潰したような顔でおれに競馬新聞を投げて寄越すこの男は越智康司。一応教師で神話科2年の担任らしい。あだ名はおっちー。おれに煙草をくれる不良教師。まあ不良同士なんか絡みやすいわけで。


「おっちーどのレース」

「菊花賞」

「天皇杯は」

「まだだ。データはそのメモな」


頷きながら新聞に挟んであるメモを見やる。狙い馬とそのデータ。適当に読み流す。うーん、とりあえずこっちから視るか。メモを右手で握って目を閉じる。深呼吸して意識を集中させる。
同時に流れ込んでくる、起こりうる未来。
目を開けて紙を手放す。あー、おっちーの予想じゃ当たらんな。次は競馬新聞のデータに手をあてる。こっちは大まかなデータだから予知の精度は下がるけど、視えることは視えるからなー。


「…どーよ」

「んー、おっちーの狙いはハズレだな。この新聞データで視ると……8番と3番が来る。単勝で買う?」

「いや、三連単」

「なら12番だな」

「わかった。単勝だとどれだ?」

「8番」

「8番か…一番人気だしなぁ。配当低そうだな」

「三連単にしたらちょっとは上がるだろ」

「まあなー」


赤鉛筆で新聞にチェックを入れていくおっちー。駄目大人め。まあおれもひとのことは言えない。


「おっちー煙草くれ」

「一本だけなら」

「けっちーな」

「俺も金欠なんだよ馬鹿。明日の菊花賞で稼げれば大分違ってくるんだ」

「当たったら何かおごれよおっちー」

「当たったらなー」


残暑はまだまだ厳しい。こんな感じで過ぎてく薄暗い昼下がり。煙草に火をつけて吸い込めば、肺が真っ黒に染まってゆく気がした。



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みーちゃん宅の越智さんをお借りしましたー。あざっす!
越智さん好きすぎる。はとねんも好きすぎる。
競馬のくだりがリアルでごめんなさい。むかしから馴染みあるんです(笑)