くあ、と欠伸をして空を見上げる。今日も絶好のサボり日和だ。ウィンストンを咥えながら今日提出の実験レポートを適当に書き上げる。授業には出ていないが内容は知っているのでなんとかなる。風で紙が飛ばされないように足で押さえながら名前を書けば完成。あとはこれをこの昼休み中に教師の机へ置いて来れば良い。とりあえず一服。一仕事終えた気分でベンチに寝転がると、向こうから声が聞こえてきた。


「おい、居たか?」

「いや、居ない。何処だ?」

「あの野郎……見つけたらタダじゃおかねぇ!」

「くそ…あのカーディガン野郎!」


………ったく、屋上庭園には害虫が多くて困る。此処は俺の庭だというのに。おまえらなんかが来るまえから、ずっと。


「俺に何か用か、害虫共」

「………!!」


プリントをポケットに突っ込んでわざわざ姿を現してやれば、目を光らせる害虫達。あーあ、面倒くせーな。


「この前はよくもやってくれたな!!」

「きっちりお礼させて貰うぜ」

「礼なんて良いって。つーかそこ退けてくれねぇかな。いまから職員室行かなきゃなんねーんだわ」

「良いぜ。ただし、俺らを倒せたらな」

「………」


ぞろぞろと害虫が増える。ざっと6匹。半分はこの前マドンナを助けたときの逆恨み。あと半分はそいつらの仲間。あ、はやくしねーと昼休み終わる。


「くたばれ、カーディガン野郎!」


おいおいなんだよそのセンスのないネーミング。最悪だな。とか考えながら飛び掛かってきた馬鹿をかわして背中に回し蹴り。倒れたところで内臓を狙って爪先蹴り。背後からきた害虫2匹のうち右側の胸ぐらを掴み上げ、左側にぶつけてやる。よろめいた2匹の腹に一発ずつ拳を見舞う。


「…っ、てめぇ!!」


積みあがった仲間を見て激昂した馬鹿が金属バット片手に走ってくる。勢いよく振り下ろされたそれをバックステップでかわす。バットが床を叩いたのを見計らって低くなった頭を掴み、下から顎に向かって膝蹴り。間髪入れずに顔を殴り、バットを奪ってやる。


「さて、と。時間もねーから、早く終わらせるかね」


からん、とバットを鳴らして笑うと残った奴らの顔が引きつる。うーん、そろそろいいか?プリント出しに行かなきゃなんねーんだけど。バット片手に考え込んでいたら、不意に屋上庭園のドアが開いた。


「あ…佐保姫先輩」

「………」


そこにいたのはまさかのマドンナ、ヤヒサツキコ。ぱっちりとした瞳がおれをとらえる。


「……なにしに来たのかな、マドンナさんよ」

「なにって…あ、この前のお礼をしようと思って…」

「今日お礼参り運強いなーおれ」


苦笑しながらバットを肩に乗せれば、害虫共がびくりと反応する。これ以上面倒臭くなるのは御免だ。


「いまは先客が居るから、また今度にしてくんねーかな」

「え…」

「ひっ…!お、覚えてろ!」

「あ、逃げた」


バットをおれに預けたまま、害虫共は居なくなった。残されたのはおれとマドンナだけ。はあ、とため息混じりにバットを放り投げて煙草の灰を落とす。


「…い、いまのって」

「あんたに告白して逆恨みしてきた奴ら+α」

「えっ…あ、ごめんなさい…」

「別にあんたは悪くないだろ。謝る必要もない」

「でも…」

「おれはいくら喧嘩ふっかけられても大丈夫だから、気にしないで良いよ」

「そ、そんなの理由になりません!喧嘩はだめです!」

「喧嘩は駄目、か。正論だな」


でも、と呟いて右手で煙草を握り潰す。熱さは感じない。


「正論がいつでも正しいと思ったら大間違いだぜ、お嬢さん」


そのままプリントを出しに職員室へ向かおうとしたら、物凄い力で腕を引っ張られた。


「…っそれでも!喧嘩はだめです!怪我したら、大事なひとたちが悲しみますよ?」

「……生憎、まだ大事なひととやらが居ないんでね。その理論は通じない」

「わ、わたしは、佐保姫先輩が怪我をしたら悲しいです!」

「そりゃどーも。けど、あんたはおれの大事なひとじゃない。だから心も痛まない」

「それは…」

「悲しみたくないなら、おれに近づかない方が良いと思うけど。あんたの幼なじみ達だって心配するだろーしな」


じゃあ、と手を振りほどいて歩きだす。後ろでマドンナが何か言っていたが気にせずに屋上庭園を出る。ポケットに入れておいたプリントはもうぐしゃぐしゃだ。なんてこった。おれは舌打ちをしながら職員室へと向かった。



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月子が苦手な佐保姫さん