放課後、ちょっと話があるからと半ば強引に六花の巣へ連れていかれた。薄暗い部屋。この準備室はいつも埃臭いからあまり好きではない。


「…で、話ってなんだよ」

「少しくらい敬語を使えんのか。…これだ」

「……進路調査表」

「そうだ。おまえは何度も書いてるはずだが」

「今年で三回目だな」

「一昨年はあまりにも問題を起こしていた不良だったから本気にはしなかった。去年は書いた後に休学だと言って学校から居なくなった。そして今年。やっとおまえが卒業してくれそうだと思った矢先、この第一希望は何だ佐保姫」

「だから、おれの将来の夢だよ。はやく嫁さん見つけて結婚して子供作って円満な家庭を築き上げる。これが第一希望」

「……本気で言っているのか」

「当たり前だろーが」


ため息を吐いて頭を抱える六花。なんだよ、なんか文句あるのか。


「嫁さんを探す前に卒業後何処へ行くかを決めておけ」

「適当に放浪する」

「大学には行かんのか」

「もう学校には飽きたんだよ」

「そうかね。…研究機関には」

「面倒くせー」

「………」


六花は苦い表情をしたのち頷く。


「相わかった。取りあえず、おまえは就職希望にしておく」

「あー、はいはい」

「…しかし、おまえの口から子供だの家庭だのという単語を聞く日が来ようとはな」

「成長したんだよ、おれも。絶対あんたより早く結婚するから、結婚式には呼んでやるよ」

「…いや、遠慮しておく。何かの拍子に誰かの運命を視てしまったら、と思うと怖くて行けん」

「……臆病だな、相変わらず」

「何とでも言えば良い。私はもう疲れたのだ」

「なら何で此処に居るんだよ。疲れたなら隠居でもしてりゃ良いだろ」


おれの言葉に六花は笑った。ぞっとするほど綺麗な笑顔。寒気がした。


「…此処に居なければ、私は死んでいる」

「……は…?」

「此処に居るのは生きているからだ。此処から消えるとき、それが私の死期だ」

「…なんだよ、それ」

「視たんだよ。鏡越しに」

「――――ッ!」


自分の、運命を。
そう言って六花は目を細めた。その視線が何処へ向いているのか、おれにはわからない。


「…なん、だよ…それ。星詠みは大抵自分の運命だけ視えないって…」

「ああ。だが、私は大抵以外…つまり一部の例外だったらしい。全く、油断していた。鏡越しに自分の死期が視えたときは気が狂うかと思ったがね」

「………」


そりゃそうだ。自分で自分の未来なんて視えたら、気が狂う。どうあがいても結果は同じになるなら、生きる理由などなくなる。


「…まあ、おまえはまだ先が長いだろうからな。私のようにはなってくれるなよ」

「いや、絶対なりたくねーから。安心しろ」

「そうかね。話は以上だ。帰って良いぞ」

「…ああ」


言われるがままに踵を返し、ドアに手をかけて部屋を見回す。閉めきられたカーテンに硝子にかけられた布。反射するものがひとつもない。それに気付いたおれは息を飲む。急いで準備室を出て、動揺を隠すように煙草を口に咥えた。


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六花さん暗いよ!!佐保姫さんファイト!!