喧騒で目が覚めた。
昨夜は部屋にあった漫画を全巻読んでいた所為で全然眠れなかったから、屋上庭園の特等席で朝から授業をサボって居眠りをしていた。それを邪魔する複数の怒鳴り声。入り口側から聞こえてくる。一体なにが起こったんだ。寝不足で苛つく頭を煙草の煙で落ち着かせながら立ち上がり、声のする方へと向かう。人気のないそこに居るのは、男が3人と―――女が1人。


「あの、だから…私、貴方とお付き合いはできません…」

「じゃあ友達からでも!」

「そ、そういうのは…」

「なんだよ、女少ないからって調子に乗って!」

「きゃっ!」


どうやら告白現場だったらしい。たった今、逆恨み現場に変わったけど。女は腕を掴まれて言い寄られている。あーあ、面倒くせーなー。でも、こういう馬鹿は見ててイライラすんだよな。


「おい、そこの馬鹿共」

「あ?」

「誰だおまえ」


ぷはぁと煙を吐き出しながら男達に近寄る。タイの色から判断するに3年か。18にもなって馬鹿が治らないとは残念な奴らめ。


「ぎゃあぎゃあ煩せーんだよ。おかげで寝不足が解消されねーだろうが」

「はあ?知るかよ」

「つーかおまえ何年だよ!俺らに逆らうと痛い目みるぜ!」

「だから、煩せーって言ってんだろ」


手ぶらの馬鹿が2人にじり寄ってくる。おれは煙草を咥えたまま2人の後頭部を両手で掴み、勢いよく額と額を打ち付けた。ガツッという鈍い音と共に2人が崩れ落ちる。ついでにひれ伏した身体の鳩尾に爪先蹴りを入れてから踏みつけてやる。それをほうけたように見つめていた馬鹿の残りが女の腕を握りながら叫ぶ。


「お、おまえ!なにす―――ッ、が…!」

「いちいち喚くな三下。いいか、おれはいまヒジョーに機嫌が悪い。これ以上痛い目見たくなきゃ、そこの馬鹿2人連れて今すぐ此処から出て行け」

「う…ぅ…!」


胸ぐらを掴んで目玉に煙草の火を近づけて脅してやれば、そいつはすぐに大人しくなった。そのまま呻きながら女の腕を放したと思ったら、いきなりおれの右頬を狙って拳を突き出してきた。顔にあたるまえにそれを受け止めると、今度はローキックが脛に入る。地味に痛いから嫌いなんだよな、ローキックって。あーイライラする。


「…どうやら、馬鹿は痛い目みたいとわかんないみたいだな」

「…っ、おまえみたいな奴に…!」

「おっ、と」


今度は左側から右ストレート。煙草を持ちながら受け止める。灰がゆらりと宙を舞った。それが地面につくより早く、おれは膝蹴りを馬鹿の鳩尾に放った。奴の身体がくの字に曲がる。手を放し一歩退いてから回し蹴りを脳天目がけて振るう。


「っぐあ!」

「隙だらけだなー」


それから無様に吹っ飛んだ馬鹿の隣にしゃがみこみ、髪の毛をわしづかみにする。


「女に振られて逆恨みして返り討ちとは、イイトコなしだなー」

「…っ、うるせぇ!」

「煩せーのはおまえらだろ。ちょっと寝てろや」

「がふっ!」


掴んだままの頭を思い切り地面に打ち付けてやると馬鹿は気絶した。ちょろいもんだ。しかし無駄に体力使ったわ。全盛期には及ばないが。


「…あ、あのっ」

「ん?」


声に振り向けば、そこには先ほど逆恨みされていた女が。こいつはタイの色からして2年か。しかし女とは珍しい。


「た、助けてくれてありがとうございました!わたし、天文科2年の夜久月子と言います!」

「…ヤヒサツキコ…?ああ、なんか聞いたことあるなー」

「え、えっと…貴方のお名前は…」

「あー、おれは佐保姫 遥。星詠み科3年」

「え……学生の方なんですか…?煙草吸ってるからてっきり先生かと…」

「残念。おれ、二回留年してるから20歳なの」

「は、はたち?」

「そ。だからおれみたいな不良とあんま関わらない方が良いよ、学園のマドンナさん」

「え、あ……」

「じゃ、おれはこれで」


ひらひらと手を振っておれは踵を返す。ヤヒサツキコ。確か学園に初めて入ってきた女子、だったか。初めて見たなー。知らないうちに時代は変わってるもんだ。なんかしみじみする。


「さて、寝直すか…」


寝て起きたら浦島太郎状態になってませんように、なんて願っておれは再び特等席で眠りについた。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
喧嘩する(?)佐保姫さんが書きたかった。