お姫様のいない世界
どうする、私
「姫様!!いらっしゃいますか?私です!」
どこかで聞き覚えのある声がして、私は思わず首を傾げる。
私ですって誰だよ名乗れよ。
「どうぞ」
そして入ってきたのは、マイタケクンアレクセイだった。
「まいたけっっ!!」
考えるより早くそう叫んでいた私に、彼はマジで首をかしげた。
全力で。
「なんですか、アレクセイ」
取り繕ってみる。
「姫様、そのお召し物はなんですか……」
彼が言う"お召し物"とは今私が着ているもののこと。
「これはヨガウエアとして作らせました。ゆったりとしているので、ルームウエアにもなります」
「よが?……うえあ?」
笑ってしまいそうになるけれど、真顔でアレクセイは首をかしげていた。
からかってごめんなさい。
「運動着です。いま私がやっている運動を、ヨガといいます」
そう、私はヨガ中。だってこんな部屋に引きこもっていたら、運動不足になる。
剣の稽古があるらしいけど、んなもん会社員にはハードすぎだし、第一稽古のお呼びがかからない。
「姫様…そのお召し物……大変…独創的で素晴らしいですが、いささか品がありません。ドレスをお召しください」
「アレクセイ!!」
ちょっとそれっぽく怒鳴ってみる。
顔がにやつかないよう注意しながら。
アレクセイは、急に声を張り上げた私に、そして今までならあり得ないエステルの行動に戸惑っているようだった。
「あなたがなぜ、私をここに閉じ込めているのか…私は全てわかっています。わかった上であなたの思惑に従い、ここにいるのです」
と意味深に笑みを浮かべてみた。
マジでからかってやろう、と思ってやってるのだけど、アレクセイはもうそれはすんごい顔でこちらを見つめ返してきた。
ここで全部知ってますよ、と色々言いたいところだが、ユーリに会えなくなっては困るので
「な〜んてネ☆」
と、ちょけてみた。
「………姫様……」
アレクセイの苦悶の表情といったら、もうそれはそれは。
「好き勝手部屋を出られないのですから、部屋の中でくらい好きなことやらせてください」
「……申し訳ありません。あなた様のお力を守るためにやっている事ですので、ご辛抱を…」
アレクセイは深々と頭を下げた。
「あまり突飛な事をなさらないように、下の者が戸惑います」
「わかってま〜す」
「……ドレイクが戻りましたので、明日から剣の稽古も始まります。ヨーデル様とご一緒ですので」
ヨーデル!会いたいかも。
けれどついに、ドレイク師匠のスパルタお稽古にお呼びがかかってしまった。
アレクセイが出て行ってから、私はヨガマットに見たて作ってもらった絨毯を仕舞って、ソファーでくつろいでみる。
なかなかの座り心地だ。
アレクセイの言う、力、とは恐らく治癒術、満月の子パワーだと思うけど、実は試してみても使えなかった。
というか、使い方がわからない。
どうやって発動させるのか不明。それどころか、魔術も無理だった。
これはいよいよやばい。
ユーリと旅に出たところで、完全に足でまといだし。
エステリーゼ様になって早くも一週間。
フレンとはそれなりに話すけれど、仲がいいとはいえない。
確か図書館で仲良くなるはずなので、図書館に行かなければならない。
この世界の文字、よめないんですけど……
一体どうすればいいのか。
今更読み書き教えて、なんて言い出したらえらい事になりそうだ。