満月と新月 | ナノ
満月と新月



船が呼んでる



フィエルティア号は海を渡って行く。

「そういえばパティ、おばさんから伝言を預かってるわん」

舵を取るパティにベティは話しかけた。
「お〜ベティ姐会ったのか〜」
「ええ、パティの事心配してたけど元気そうだったってばぁ」
「そうかそうか!で、なんといっておったのじゃ?」

「いつでも帰ってきていいからって。部屋もそのままにしてあるってさ」

「………そうか、ありがたいのじゃ」

パティは嬉しそうに笑った。



「なんだか急に霧が深くなってきたわよ」

ジュディスが言った。

たしかに、あんなにも晴れていたのに、突然暗くなり、霧が立ち込めてきた。

「不気味…」
カロルが呟いた。
「こういう霧って、何か良くないことの前触れだったりするわな」
レイヴンは楽しそうだ。
「余計なこと言うと、ほんとになっちまうぜ」
ユーリはベティをみて不敵に笑った。
「ちょ!やっやめてよぉ!!」
ベティはパティにしがみついた。

「なんじゃベティ姐のそれ、まだなおっておらんのか?仕方がないのう」

「あっ!前、前!」

リタが叫ぶがもう遅い。
霧でよく見えずに、大きな古い船に衝突してしまった。

「何?!」

船室からカウフマンが飛び出してきた。

「なにこれ、ずいぶん古い船ね。みたことない型だわ」

カウフマンはぶつかった船を見ていった。
「アーセルム号って書いてあるわね」
ジュディスはすごく嬉しそうだ。



ギギーッと音がしてアーセルム号のタラップがおりてきて、フィエルティア号に掛かった。

「「ひゃ!!!」」

ベティとリタが叫ぶ。
「人…乗ってるのかな?みっみあたらないけどっ」
カロルもびくびくとユーリの後ろに隠れた。

「まるで呼んでるみたいです…」

「なっ!バカなこと言わないで!船だして!」
リタがパティを見た。

「むーダメなのじゃ、駆動魔導器がうんともすんとも言わんのじゃ〜」

パティは眉を下げた。
「えっうそっやだっ!!」
ベティはぎゅーっとパティを抱きしめた。
リタは駆動魔導器の所まで駆けて行き調べるが、動かない原因はわからないようだ。


「なんで!どうなってるのよ!」

「原因はこいつかもな」
ユーリがアーセルム号を見た。

「うひひ、お化けの呪いってか」

レイヴンが楽しそうに言った。
「いやだいやだいやだ、私は帰りたい」
ベティはぶつぶつ呟く。

「ベティ姐!しっかりせんか〜お化けなんて怖くないのじゃ」

パティがしがみつくベティをなでなでした。
「入ってみましょう、面白そうだし。私好きだわ、こういうの」
ジュディスがにっこりとユーリに言った。

「何言ってんの?!」

リタがびっくりしてジュディスをみる。
「原因わかんねえしな。行くか」

「ちょっとフィエルティア号を放っておくつもり!?」

カウフマンが言った。
「ちゃんと見張り残すさ、それならいいだろ?」
「そうね、いい案だわ」
ジュディスは本当に楽しそうだ。
「行くのは俺と…ラピードは行くよな」
「ワンッ!!」

ラピードが吠えると、パティにべったりなベティの隣に座った。

「おいおい、お守りするってか?」

ユーリの言葉にふんっとラピードが鼻を鳴らした。
「ラピード…やっぱり優しいのねん」
ベティはラピードにぎゅっとしがみついた。

「じゃ、私行ってもいいかしら?」

ジュディスが言う。
「ああ、いいぜ。前衛ばっか行けねえから、あとはリタとおっさんでどうだ?」
「あっあたし行かないわよ!駆動魔導器見なきゃいけないんだから!」

「じゃ、エステル」

「え…わ、わたしですか…?」
「まったく付き合いきれないねえ、んじゃま行きますか」
レイヴンが言った。


「一応、駆動魔導器調べて、直ったら発煙筒でしらせるから、すぐに戻ってきてくれ」
護衛の男が言った。
ユーリ達はアーセルム号へと入って行った。



「みんな呪われちゃうんだわ…」

ベティがぼそりと呟く。
「や、やめなさいよ!あんた!」
「なによぉ、リタだって怖いくせに」
「うっうっさいわね」

「ユーリ達大丈夫かな…」
カロルは心配そうにアーセルム号を見上げた。
「進んで行くなんて訳わかんないわん」
ベティはため息をついた。

「でも、困ったわね。駆動魔導器が動かないんじゃ、どうしようもないわ」

カウフマンも肩を落とす。
「いざとなれば、みんなでオールを持って漕いでいくのじゃ」
「オールってあんた、のんきね」
リタは駆動魔導器を調べているが、成果はないようだ。






ギギギギギギギ


「え?なんの音?」
カロルが言った。



ドォォォォン



大きな音とともに、アーセルム号のメインマストが倒れた。


「えーーー!なんでなんで!こわいこわい」

ベティはカウフマンの後ろに隠れた。
「ユーリ達大丈夫かな!?様子見に行こうよ!」

「船の護衛はどうするのよ!」

カウフマンが声を張り上げた。

「でも、エステルの護衛も僕らの仕事だから」

カロルは申し訳なさそうに呟いた。

「「あたし行かない!」」

ベティとリタはこの件に関してはずいぶん気が合うようだ。
「だめなのじゃ、仲間がピンチなのじゃ」
パティが言った。
「し、仕方ないわ、行くわよ!」
リタは震えながら言った。

「えぇほんと?!」

ベティは涙目だ。
「ほれほれ、行くのじゃ」
パティはタラップへと歩き出した。

「うう…って事で、メアリー、ごめん行ってくる」

「あなた大丈夫なの?……しょうがないわ。見つけたらすぐ戻ってよ?」
カウフマンはため息をついた。


ベティ達はアーセルム号へと入って行った。

「なんか心細いですね、社長…」
「そんな事言わない!なにか明るい話をしなさい!明るい話を!」
カウフマン達を残し、ベティ達は船の中へと進んで行く。




「ユーリ達、居ないね」

先頭を歩くのはカロル。

「ったく、どこまで行ってんのよ!」

リタは怖いのか先ほどからキョロキョロと周りを見渡している。

「もういやよ、ほんとにいやぁ」

ベティは剣を握ったまま進む。

「お宝のにおいがするのじゃ〜」

パティは嬉しそうにあたりにお宝がないか探しながら進んでいる。

「はぁ、ベティがいるのに、なんか頼りないなあ」

カロルはぼそりと呟いた。



しばらく進んで行くと、隣の部屋からなにやら話し声が聞こえてきた。
どうやらユーリ達のようだ。

「よかった!無事だったんだね!」

カロルがユーリに駆け寄った。

「ゆぅぅぅぅりぃ!」

ベティがユーリ飛びかかった。
「うぉっと!」
ユーリはクオイの森でしたように、抱きかかえた。

「あなたが意気揚々とこんなところに入ったせいで!私まで来るハメになったじゃないのぉ」

ベティは涙目でユーリに訴える。

「はいはい。よく来たな、えらいえらい。怖かったんだろ?」

「いまも怖いわよ!」

「ベティ姐ずるいのじゃ〜うちもユーリに抱きつくのじゃ」
パティは勢いよく、ユーリの足にしがみつく。
「お、青年モテモテね〜」
レイヴンはけらけらと笑った。

「あんたらはもう!どこでもベタベタすんのやめなさいよ!」



「しっかし、何連れてきてんだよ」
ユーリはパティを見た。
「勝手に着いて来たんだよ〜」
カロルは訴えるように言う。

「ユーリに会いにきたのじゃ」

「度胸あるよ、ほんと。船の方は大丈夫なのか?」
「早くこんなところでようよ!」


カロルが言うと同時に、ベティたちが入ってきた扉が勝手にバタリと閉まった。

「幽霊の仕業じゃな」

パティはニヤリと笑う。

「「う、うそでしょ!」」

またもやリタとベティは声を合わせた。

「2人は息が合うのね」

ジュディスがクスリと笑った。

「きっとこの船の悪霊たちが、わたしたちを仲間入りさせようと船底で相談してるんです……」

「エステルはなんでいつもそゆこというのよん」
ベティはユーリの腕の中でぶるぶると震えている。

「へ、へんな想像しないでよ!」
リタもびくりと体を硬くした。

「そ、そうよ〜ありえねぇって」
レイヴンもははっと笑う。

「そこがダメなら別の出口を探そうぜ」
「そうね、いきましょう」


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