満月と新月 | ナノ
満月と新月



魔核奪還



「性懲りもなく、また来たか」

塔の屋上に出たユーリ達をバルボスが迎える。

「待たせて悪ぃな」
ユーリは不敵に笑った。

「もしかして、あの剣の魔核、水道魔導器の……!」

リタが目を見開く。
「ああ、間違いない……」
ユーリが頷いた。

「分をわきまえぬバカどもが。カプワ・ノール、ダングレスト、ついにガスファロストまで!忌々しい!」

バルボスが怒鳴る。

「あんたのくだらないお遊びに、付き合ってあげたんだからぁ感謝はされても、怒鳴られる筋合いないってばぁ」

ベティが剣を構えた。

「バルボス、ここまでです。潔く縛に就きなさい!」

エステルは凛とした声で言う。

「間もなく騎士団も来る。これ以上の抵抗は無駄だ!」

フレンが言う。

「そう、もうあんた終わりよ」

リタは馬鹿にしたように言った。

「ふんっ、まだ、終わりではない。十年の歳月を費やしたここがあれば、ワシの野望は潰えぬ!。あの男と帝国を利用して作り上げたこの魔導器があればな!」

バルボスは下町の魔核を使った剣を構えた。

「「『あの男』……?」」
フレンとベティが呟いた。

「貴重な下町の魔核を、くだらねえことに使いやがって」

ユーリは鞘を投げ、剣を構えた。

「くだらくなどないわ。これでホワイトホースを消し、ワシがギルドの頂点に立つ!ギルドの後は帝国だ!この力さえあれば、世界はワシのものになるのだ!手始めにお前たちから失せろ!」

バルボスが剣を一振りすると物凄い衝撃波が襲い、ユーリ達は思わず倒れた。


「大丈夫か、みんな!!」

ユーリが皆の無事を確かめる。
「ううう、あの剣はやばぁいってばぁ」
ベティが言う。
「やばいっていうか……反則でしょ」
レイヴンがため息をついた。
「圧倒的ね」
これにはジュディスも堪えたようだ。

「グハハっ!!魔導器と馬鹿にしておったが使えるではないか!」

バルボスがまた剣を振るう。
圧倒的な衝撃波に近づくこともできない。


「そんな……!」
エステルが悲し気に言う。
「どうした小僧ども。口先だけか?」
バルボスは馬鹿にしたように笑った。
「ふん、まだまだ」
ユーリは不敵に笑う。

「お遊びはここまでだ!消し飛ぶがいいわ!」

バルボスが叫ぶが、上から声が聞こえた。



「伏せろ」


デュークだ。
彼が剣を掲げると、バルボスの剣は爆発して真っ二つに折れた。

「あれは……?」
フレンが呟く。

「デューク……」
ベティはデュークと目が合ったが、すぐに彼は去って行った。

「ヒマも興味もなかったんじゃないの?」
レイヴンが肩を竦める。
「あいつ……!」
「リタ、今はよそ見すんな!」
ユーリが咎める。

「……くっ、貧弱な!」

バルボスが剣を捨てた。
「形勢逆転だな」
ユーリがにやりと笑う。

「……賢しい知恵と魔導器で得る力などまがい物にすぎん……か。頼れるのは、己の力のみだったな」

バルボスが大ぶりの剣を構えて言う。
「さあ、おまえら剣を取れ!」

「あちゃ〜、力に酔ってた分、さっきまでの方がよかったかも」
レイヴンが額に手のひらを当てた。
「開き直ったバカほどやっかいなものはないわね」
リタが言う。

「ホワイトホースに並ぶ、剛嵐のバルボスと呼ばれたワシの力と……ワシの『紅の絆傭兵団』の力。味わうがよい!」



橋の向こうからギルド員達が、大勢走ってきてユーリ達を取り囲む。

「後悔しやがれっ!」
バルボスが声を張り上げた。

「加減するな!ゆけぇ、お前たち!」

バルボスの後ろからどんどん男たちが押し寄せてくる。

「なんとかしねえとやばいぜ」
ユーリが呟く。
「まかせといてん!」
ベティは術式を展開する。

ユーリ達もギルド員をなぎ払うが、橋をなんとかしないとキリがない。

「清廉なる調べ、全てを凍らせる静寂を!エターナルアイス」

ベティが放った魔術は橋に巨大な氷の柱を作出し、道を完全に塞いだ。

「ベティちゃんやるう」
レイヴンがベティにキスを投げた。

「ふんっワシはいずれユニオンをぶっ潰し、そして世界を制覇する男!」

バルボスが言う。
「そりゃステキな夢だな!でも寝言は寝て言えよ!」
ユーリがバルボスに斬りかかった。

ジュディスやカロル、前衛のメンバーは残るギルド員を一掃して行く。


「バルボス!誰もあんたなんかお呼びじゃないわよん!」

ベティもバルボスに斬りかかる。
僅かにわき腹を掠める。

その隙をついて、ユーリがバルボスの背後に周り斬りつけた。

「ごはっ!」

バルボスは前のめりに倒れた。

「……もう部下もいない。分をわきまえないバカはあんたってことだ」

「ぐっ……ハハハっ な、なるほど、どうやらその様だ」

「ではおとなしく……」
エステルがバルボスの方に進む。

「こ、これ以上、無様をさらすつもりはない……ユーリ、とか言ったな?おまえは若い頃のドン・ホワイトホースに似ている……そっくりだ」

バルボスはニヤリと笑う。
「オレがあんなじいさんになるってか。勘弁してくれ」

「ああ、貴様はいずれ世界に大きな敵を作る。あのドンのように……そして世界に食い潰される。悔やみ、嘆き、絶望した貴様がやってくるのを先に地獄で待つとしよう」

バルボスはジリジリと建物の際に後ずさる。

「やめ…!」

ベティがバルボスに駆け寄る。
わずかに遅れて、ユーリも走り出したが、2人とも間に合わず、バルボスは薄笑いを浮かべながら塔の下へと落ちて行った。

「最後に、してやられた…」

ベティは悔しそうに俯いた。




「魔核が無事でよかったぜ」

ユーリが折れた剣から魔核を取った。

「これでまたハンクスのじっちゃんとこ、顔出せるわん」

ベティが言った。

「さて、魔核も取り戻したし、これで一件落着だね」
カロルが言う。
「でも、バルボスを捕まえることができませんでした……」
「ええ……それだけが悔やまれます」
フレンがエステルを気遣うように言う。

「何言ってんの、あんな悪人、死んで……」
リタの言葉をユーリがチョップで遮る。

「ふぎゃ……!」
「それにまだ一件落着には早いな」
フレンが言う。

「ああ、こいつがちゃんと動くかどうか確認しないと」
「…………」
フレンは何も言わない。

ユーリはわざとラゴウの話題を避けるように、魔核の話にすり替えたからだ。

「魔核はそんなに簡単には壊れないわよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。知ってた、レイヴン……?」

カロルがレイヴンを探すが、居ない。

「また、あのおっさんは……本当に自分勝手ね」
「それをリタが言うんだ」
「人それぞれでいいんじゃない?」
ジュディスはにこっと笑った。

「ダングレストに帰ったんだろ。会いたきゃ会えるさ」



塔を降りてきたユーリ達、フレンが振り返って言う。

「僕も一足先に戻る。部下に仕事を押しつけたままだから……エステリーゼ様もどうか私とご一緒に」

「ええと……わたし……もう少しみんなと一緒にいてはいけませんか……?」

「聞き分けのない姫さんの面倒はもう少しこっちで見てやるよ。その方がそっちも楽だろ?」

ユーリが言うとエステルは嬉しそうだ。
だが彼女の旅の終わりは近づいている。

「……わかった。その代わり、絶対に間違いのないように頼む。寄り道も駄目だ、いいね?」

「分かった分かった」
フレンが念を押すように言うので、ユーリはため息混じりに返事をした。
「ではエステリーゼ様、ダングレストで」
「ありがとう、フレン」

「ベティもまた……」

フレンはベティを見る。
ベティは何も言わずに、笑ってヒラヒラと手を振った。



「浮かない顔して、どうかしましたか?」
「いや、まだデデッキの野郎を、ぶん殴ってねえと思ってさ」

「魔核は戻ったんだからいいんじゃないの?そんなコソ泥なんて」

カロルがユーリを見る。
「ま、それもそうだな。どっかで会ったら、絶対にぶん殴るけど」
ユーリは塔を仰ぎ見る。

「……地獄で待ってる、か。やなこと言うぜ」

その声は皆に届くことはない。
「ほらほら、戻ろうよ」
カロルがユーリを引っ張った。

「じゃあ、私はここでお別れね」
ジュディスはニコリと笑った。

「相棒のとこ戻るのか?」
ユーリがジュディスを見る。

「相棒?誰です、それ?」

「ここからは別行動。お互いの行動に干渉はなしね」

エステルの質問には返事をせず、ジュディスは言った。
「そっか、じゃあな」
「ええ……」
ジュディスはそのまま去って行った。


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