満月と新月
喉痛い!
「あ〜あ〜………がはっ……」
「ベティ?どうしたの変な声だして」
カロルは先ほどから奇妙な発生をするベティに声をかけた。
「……………」
彼女は不満そうにカロルを睨む。
「えっごめんっ……」
「いや、なんか声枯れちゃって……」
そう言った彼女の声は、掠れて消え入りそうだ。
「え!?すごい声だよ!?大丈夫?!」
「平気……でも、歌えないのつらい……」
「そういう時はあんまり喋らない方がいいよ!ボク飴もってるからあげるよ!」
そう言ってカロルは、ごそごそと自身の半身ほどある、大きなカバンを漁った。
持ち主でなければ探し出せなさそうだが、さすがカロル先生。
はい、と取り出した飴の包み。
「ありがと……」
掠れた声で受け取った彼女は、包みを開けてまさしく飴色のまん丸を口に掘り込んだ。
が、次の瞬間この上ないくらい顔をしかめる。
「……な、なにこのあめ………」
「え?大根と生姜の飴だよ!喉にいいんだ!最初は変な味だけど、だんだん病み付きになってくるよ!」
嬉しそうにそう言ったカロルを見ていると、このとんでもなくまずい飴を否定できなくなってしまい、ベティは口を閉じた。
カロルの味覚がフレンに毒されたのだろうか、と不安がよぎる。
口いっぱいに大根の苦味と生姜の風味。
そして甘い。
なんともミスマッチなハーモニーは、ベティの口の中で史上最低の不協和音を奏でている。
(大根の味が余計だ……生姜の飴は美味しいのにぃ……)
彼女の心の呟きは、誰に届く事なく留まった。
「あら、ベティったらプロ失格ね。歌い手が喉を痛めるなんて」
ジュディスがくすりと笑う。
「……いや、いつもなら変だと思ったらハチミツレモン飲んで、濡れタオルでマスクして寝るのよん?でも……昨日は……」
ベティは眉間にシワを寄せ、振り返る。
その視線の先にはユーリ。
「……あら、そういう事」
ジュディスは楽しそうに微笑んだ。
「え?どういう事?」
カロルは首を傾げた。
「カロルにはまだ早くてよ」
ジュディスが妖艶にカロルに笑いかけたので、彼は思わず後ずさりして、引きつった笑みを返した。