満月と新月 | ナノ
満月と新月



選ばれし者



翌朝、長老の所へと向かった。

快く迎えてくれたが、星の記憶の事をたずねると、途端に困ったような顔を見せる。

「クリティアの長にだけ伝えられる話じゃ……それを話すわけにはいかぬ」

「お願いです教えてください!ベティが狙われているんです!」

エステルが言った言葉に、長老は驚きに目を見開く。

「なんと!ではベティは力を!?」

「力…?って星の魂が言ってたのと関係あんのかね?」

レイヴンが言う。

「お願い詳しく教えて!」

リタは長老につめよる。



「………うむ」


長老は、すぐに落ち着きを取り戻し、うーんと沈黙していたが、しばらくして意を決したように、冷静に話し始める。



「力とはすなわち未来を見る力だそうな。二千年に一度、その力を持ったものが生まれては、代々星の記憶に選ばれ、新たな星の魂として、星の記憶を守っていくそうじゃ」



「新たな星の魂……解放されるって言ってたのはその事……」

リタはこめかみを抑えた。

「それはベティ姐が、あの白いのになってしまうということかの?」

「今度はその女の番……というのも、自分の役目は終わりということかしら」

ジュディスが言った。

「え……じゃあ……あの男の子も…二千年前に……」

エステルは口を手で覆った。



「人間だったけど、星の記憶に選ばれたってわけか……」



ユーリは眉を寄せる。

「その未来を見る力っていうのは?」

カロルがベティを見た。

「………わかんないわねん」

ベティは首を横に振った。

「でも、もしかしたら目覚め始めてるかもしれないわ」

「タルカロンの事ねん……」

ベティは目を伏せた。

「長老様、他に詳しいことはわからないのかしら?」

「そうじゃのう、口で伝えられてきたことじゃ、これ以上のことはワシにもわからんの………じゃが、そうして代々星の記憶を守るものがおるから、多くの魂の集まりである星の記憶は、混乱することなく今日まで世界は保たれておる、と言われておるの」

「ありがとう長老様」

ジュディスがお礼を言い、皆は長老の家を後にした。





隣の空家へと戻って、もう一度話を整理する。

「つまり、星の記憶は、名前の通りこの星の記憶そのもので、この星で生きて、死んだ生き物の魂の集まり。そして、星の魂はそれのいわゆる管理人で……もとは生きてた人間……」

リタが言う。

「で、その人間は、未来がわかる力のあるものが次々と代替わりしてるってことだ……」

レイヴンは困ったように肩を竦めた。

「星の魂がいないと世界が混乱するというのは、どういうことなんでしょう?」

「集合体をまとめてる要になってるって考えていいわ。理屈はまだわからないし、混乱っていうのもどういう事が起きるのかわからないけど」

「……ベティ姐、今未来は分かるのか?」

パティの問いに、ベティはわからない、と首を振る。

「タルカロンの時も、落ちるような気がしただけぇ。未来がわかったかどうかはわかんないのよねん」

「でも可能性はあるわ。でもこれじゃ防ぎ方がわからない……もっと情報が欲しい……せめて精霊に話を聞けたら……」

リタはエステルを見たが、彼女は申し訳なさそうに俯いた。



「……デュークはどうだ?」


ユーリが言う。

「そうだよ!デューク何か知ってそうだったよね!」

カロルがぱっと瞳を輝かせた。

「でも、どこ行ったかわかる?」

レイヴンが言う。
確かにその通りで、まったく見当もつかないのが現状だ。

「街に居るわけもないし、あの時引きとめればよかった……」

リタが唇を噛んだ。



「帝都に、そういった資料はないでしょうか?」


「帝国が出来たのは千年前、可能性は限りなくゼロに近い……でも……」


「調べてみる価値はあるわね」


リタの言葉にジュディスが同意した。




「なら、オレはデュークをさがす」



ユーリが言う。

「じゃあボクも!」
「うちも行くのじゃ!」
「俺様も帝都よかそっちのがいいわね」

「なら、ユーリたちと連絡がつかなくなるのは困るから、私はバウルにお願いして、帝都とそっちを行き来するわね」

「私はリタと資料を探します!」


皆はあっという間に、次にすべきことを見つけて動いてくれる。



「みんなありがとう!」



ベティはぺこりと頭を下げた。

皆はそれを見て嬉しそうに笑った。


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