満月と新月 | ナノ
満月と新月



新たな一歩



それから2人は、広場の壊れた結界魔導器の前に座って、皆を待っていた。

「あら?お二人さん早いね〜」

レイヴンがへらへらと笑いながらこちらに歩いてくる。皆も宿を出てきた。

「散歩してたんだよ」

「そら高尚なこった。にしても、最初に来た時とはダンチで快適なベッドだったわ」

レイヴンは大きなあくびをした。

「立派に街になってるもんねえ」

ベティは嬉しそうに笑った。

「名前をつけないとね。ここはもう街なのだから」

ジュディスがエステルを見た。

「はいはいはい!手作り丸太の……」

カロルが言いかけたところで、リタのチョップが飛んでくる。

「ぶー!」

カロルは涙目でリタを睨んだ。

ベティは立ち上がる。広場の向こうから、ヨーデルとフレン達が歩いてくるのが目に入ったので、手を振る。
ヨーデルも嬉しそうに手を振りかえした。



「え……っと……雪解けの光って意味のオルニオンなんてどうです?」

エステルが言う。

「オルニオン……いい名前ですね」

ヨーデルが言った。

「殿下のお墨付きだ。決まりだな」

ユーリがニヤリと笑う。

「いいんじゃない。こっちも出来てるわよ」

リタは布にくるんでいた青い刀身の剣を取り出した。

「明星壱号じゃな!かっこよくなったのう」

「これ、ヨーデルの剣ですね」

「え!?いいの?そんなの使っちゃって……」

カロルが目を見開く。

「大きさも構造もちょうど良かったのよ。レアメタルだし、ほら」

リタはユーリに剣を差し出した。

「いい剣だな」

ユーリは軽く振って、感触を確かめる。

「どうせ私は剣はからきしですし、お役に立つのなら本望ですよ」

ヨーデルは嬉しそうに笑う。

「じゃ、明星弐号だね!」

カロルが楽しげに言ったので、リタも諦めたのか、もうそれでいいわよ、とため息をついた。



「いよいよだね、ネットワーク構築は、こちらに任せてくれ」

フレンがユーリに向き直り言った。



「いえ、隊長も彼らと共に行って下さい」


ソディアがそういうと、フレンは驚いて彼女を見た。

「なにがあるかわかりません、隊長のお力が必要なはずです」

「大丈夫ですよ、僕だっているんですから」

ウィチルが胸を張る。

「しかし、騎士団には魔導器のことで、人々を説得する任務もあるんだぞ」

「肝に銘じています。人々の協力なくしては成功しない、と」

ソディアは真剣な眼差しでフレンを見つめる。

「……分かった。ただし、たとえ行動を別にしていても、僕たちは仲間だ。ソディア、ウィチル、それだけは忘れないでくれ」

フレンは、私ではなく、僕と言って2人に話した。

無意識なのか意識的なのかはわからないが、気を許したという証拠だろう。

ソディアとウィチルは、「はい!」っと声を揃えて返事をした。



フレンとユーリはお互い顔を見合わせ、頷く。

「お姉様、気をつけて行ってください」

ヨーデルはベティを見つめた。

「うん。ヨーデルも頑張ってね」

「はい。エステリーゼ、それに皆さんも気をつけて」

ヨーデルの言葉にユーリ達は街の外へと歩き出した。




「みんな、忙しいところすまない!一時、手を止め、ヨーデル殿下の話を聞いてほしい!」

ソディアの凛とした声が響く。


「みなさん、今から大事な話をさせてもらいます。これは帝国にもギルドにも、この世界で生きる全ての人に関係のあることなんです」


ヨーデルの声も響く。
迷いのないその声に、ユーリ達は振り返ることなく進んで行く。
ベティは嬉しくなって、クスリと笑った。



「さあ、オレたちはオレたちの仕事をこなさなきゃな!カロル、締めろ」

ユーリが言う。

「うん!みんな!絶対に成功させるよ!凛々の明星、出発!」

カロルが声を張り上げると、皆もしっかりと返事をした。


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