満月と新月 | ナノ
満月と新月



けじめ



日が落ち始めた頃、バウルが戻ってきた。
街の騎士団本部に、首脳陣が集まるので、ユーリ達も本部へと向かった。
中に入ろうというところで、ベティが立ち止まる。


「入らねえのか?」

「………ここで、待ってるわん」

「………わかった」

「うちもここで待つのじゃ」

パティもベティの隣に並んだ。

「おう」

ユーリはひらりと手を振って中へと入っていったので、皆も続いた。



「ねえ、これから世界はかわっていくのねん」

ベティは夕焼けに染まる空を見上げた。

「そうじゃの、ベティ姐も一緒に、その世界を楽しむのじゃ」

パティも同じように空を見上げた。

「ふふふ、パティは何でもお見通しねえん」

「うちに隠し事はいかんぞ」

パティはベティを見つめる。

「諦めたら、できることも出来ぬのじゃ。みんななんとかしようと考えておる。ベティ姐が諦めては、ダメなのじゃ」

ベティが星の記憶の事を、諦めていたのを気が付いていたのだろう。
パティは厳しくも優しい視線を向けた。

ベティは何も言わず微笑んだ。






「お、ちゃんと待ってたな」

部屋を出てきたユーリがベティ達を見てニヤリと笑った。

「どう?理解はしてもらえたかしらん?」

「はい、今はヨーデル達がこれからのことを話し合っています」

エステルがにっこりと笑った。



「最後まで立ち会わないのか?」

ユーリ達を追いかけてきたフレンが言った。
ソディアとウィチルも一緒に出てくる。

「それはオレらの仕事じゃねえしな」

「……そうか」

「面倒な事全部回しちまって、すまねえ」

「いや、それはこっちの台詞だ……つらいところを任せてしまってすまない」

「さ、世界中の魔核にアクセスする方法を探さないと」

リタがこめかみを抑えた。

「それなんですが、アレクセイの残した研究記録に、魔導器間のネットワークを構築するみたいな記述が…」

ウィチルが言った言葉にリタは目を見開いた。


「それ!どこにあるの!?」


「えっと、僕の私物と一緒にここに運んできました」

ウィチルの言葉を聞いて、リタは一目散に走り出した。

「え!?あ!ちょっと!」

ウィチルも慌てて後を追いかける。

「あ!わたしも!」

エステルもリタを追いかけた。

「あっちはきっと問題ないわねん」

ベティはぐいーっと伸びをした。

「あの子がああなったら、ちゃんと答えをみつけてくれるわね」

ジュディスはにっこりと笑った。




「ユーリ、ちょっといいかな?」



フレンはユーリに向き直り行った。

「ん?ああ、どうした?」

「ここじゃなんだから……」

「……わかった」

ユーリは頷くとフレンと共に街の外へと歩いて行った。



「修羅場ね」

ジュディスは楽しそうに微笑んだ。

「修羅場じゃの」

パティもニヤリと口角をあげた。







「君に言いたいことはふたつあるんだ」


フレンはユーリ向き直り言った。

「んあ?」


「まずひとつ目、今ここに世界の指揮をとる人たちが集まってる。君の功績を称えられる時だ」


「またその話か」

ユーリは眉を下げた。
ザーフィアスでも言われていたから。

「僕の功績は君の……」

「いいじゃねえか、誰がやったとか、どうでも」

ユーリは目を伏せた。


「よくないさ!なぜ自分だけ損な選択をするんだ!どうして辛いことを全て背負おうとする?僕には無理だからか?」


「おまえはオレが背負えないもん背負ってんだろ。オレが好き勝手やれてんのは、誰のおかげかわかってるぜ」


「納得いかないね!そのクセ、ベティは君のものじゃないか!」

「そっちが本題か?こっちでかかってこいよ!」

ユーリは剣を抜いた。

「ユーリは昔からそうだ!」

フレンも剣を抜く。

「僕をかばうくせに!」

彼は地面を蹴る。

「僕が1番欲しいものは君が持っていく!」

フレンが振り上げた剣を、ユーリも剣で受け止める。

「おまえがモタモタしてるからだろっ」

ユーリは剣を振り切る。フレンが思わずよろけたので、尽かさず剣を振り下ろすが、間一髪でフレンはかわす。

「最初に好きになったのは僕だ!」

フレンはユーリの足元を狙う。

「そんなもん関係ねえだろうが!」

ユーリは勢いよく飛び上がりかわす。

「あるっ!」

フレンはぐっと地面を踏みしめ、上向きに剣を振ったが、ユーリはそれを受け流し、フレンの背後に回った。

「そんならさっさと口説いとけよっ」

ユーリは斬りつけるが、フレンはうまく逆手で剣を持ちそれを弾いた。

「口説いたに決まってるだろ!」

フレンはその勢いを利用して、ユーリの剣を振り払う。

「結果になってなきゃ意味ねえ!」

ユーリは思わずよろめく。

「それにっ!一緒に旅をしてるユーリには分がありすぎるっ」

フレンは反撃に素早く懐を狙うが、今度はユーリが後ろに飛んでかわす。

「一緒に居たくらいでベティが落ちるわねだろ!」

今度はユーリが懐を狙う。フレンは後ろに飛んで剣を構え直す。

「わかってるよ!」

フレンは思い切り剣を振った。

「だったら諦めてくれよっっと!」

ユーリがフレンの剣を弾いて、フレンは思わず手を離した。



「……はぁっ…はっ……ついに剣でも負けてしまったね」

フレンはばたりと仰向けに地面に転がった。

「へっ…ざまあ…みろ……」

ユーリも荒い息をしながら、フレンと共に地面に寝転がる。

「腕を上げたな、ユーリ」

「おまえもな」



「昔…剣に誓ったよね。人々の笑顔のために戦うのだと」


フレンは剣を掲げた。

「ああ……例え歩む道が違っても」

「背負うものが違っても」

「賛辞を受けても、罵られても」

「騎士もギルドも変わらないよね」

「オレたちはお互い手の届かないところがある」

ユーリも剣を掲げた。

「だから僕たちはひとりではない」

2人は寝転がったまま、剣を合わせた。

お互い顔を見合わせると、2人は声をあげて笑った。


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