満月と新月 | ナノ
満月と新月



決意



「これで、精霊はそろったね」

カロルが皆に言った。
バウルがぶら下げている船へ戻り、ひとまず怒涛の慌ただしさから一息つくことが出来た。

「あとは、世界の魔核を精霊に……でしょん?」

ベティは風になびく髪をうっとおしそうにかきあげた。
ここのところ、まともに風呂にも入っていない。

「今いる精霊の力だけで、星喰みを抑えられればいいんだけど……」

リタがそう言うと、レイヴンは間髪いれずに口を開いた。

「中途半端で挑める相手じゃないでしょーよ。失敗は許されないんだから、万全を期すべきよね」

「わかってるけど……」

リタは眉を寄せた。


精霊生み出す、それだけでも、この世界の在り方を随分と変えてしまった。
もちろん世界のためなのだが、自分達だけでテルカ・リュミレースの人々の生活を変えてしまっていいわけはないのだ。

むしろ、怖いのかもしれない。

たとえ、世の中に責められても、それをする覚悟があるのかどうか。




「……オレはこのまま世界が破滅しちまうのは我慢できねえ」


沈黙の中で口を開いたのはユーリ。

「デュークがやろうとしてる事で、世界が救われても……普通に暮らしてる奴らが消えちまったら意味ねえだろ。だから、オレは大悪党と言われても、魔導器を捨てて星喰みを倒したい。みんなどうする?降りるなら今だぜ」



「俺様はついてくぜ。俺の命は凛々の明星のモンだしな」

レイヴンは楽しそうに笑った。

「私も、ベリウスやフェローが託してくれた気持ちがあるもの。それに、中途半端は好きじゃないわ」

「後悔したくないからね」

ジュディスもリタも頷き、笑った。

「うん、ボクも後悔したくない」

「はい。自分で選択したことなら、どんな結果になっても受け入れられる……この旅で学びました」

皆の言葉にラピードも吠えたてた。

この旅で、皆強くなり、たくましくなった。

でもそれは1人じゃないからなんだと、ベティは確信した。


「みんなが居れる、信じてる仲間がいる。その他大勢なんて怖くないわねん」


ベティは楽しそうに笑って、ぼんやりしているパティに歩み寄り優しく言った。

「パティは?どうしたい?」

「うち……当然ついて行くのじゃ!」

いつも以上に明るく言った彼女に、ユーリは一瞬だけ眉を寄せた。

「わかった、みんな……最後まで一緒にいこう」

「一応、ユニオンとか帝国に話はしておいた方がいいわねん」

「そこで反対されたら、いよいよ私たちは世界にあだなす大悪党ね」

ジュディスはクスリと笑った。

「あら、かまわないわよん」

「じゃあ、話をしに行こうか」

カロルが言った。

「あと、色々準備もしたいから、どっか適当な街に寄りたいんだけど」

リタがそう言ったので、ここから1番近い、ノール港に寄る事となった。
ヘラクレスの砲撃のあと、街の様子も気になるところだ。





各々船の中で解散したメンバーだったが、ベティは雲海の下を見つめるパティを後ろからぎゅっと抱きしめた。


「ベティ姐〜!危ないのじゃ〜」

パティは困ったように言った。

「決めたのねん」



「………うむ。星喰みとの事の前に、きちんと決着をつけたいのじゃ」



パティはじっと星喰みを見つめた。

「……わかった。でも、あたしも行くわよん?」

「うちがせねばならん事なのじゃ〜」

「もちろん、それはそうだけど、ちょっとした護衛よん」

「………ありがとうなのじゃ…」

「ふふん、あたしらコンビでしょん」

「そうじゃの」

パティは嬉しそうに笑った。


世の中には色んな友情の形もあるが、2人は支え合って成り立っている。
お互い様なのだ。
これから再びパティが進み出すためには、サイファーの事は乗り越えねばならないだろう。

ザウデの出来事があってから、ベティは少しアレクセイの研究について調べたが、公には出来ないような事まで行われていた。
詳細はほとんどわからず仕舞いだったが、目を背けたくなるような話ばかりだった。







カプワ・ノールは随分と閑散としていて、人の姿は見当たらなかった。

「あーだめ、お風呂入りたい……」

ベティがぼやいたので、リタは買い物に行くから宿屋で待ってて、と言った。

エステルがリタの買い物に着いて行くといったので、リタはどことなく嬉しそうに頷いた。

部屋を取ると、いの一番にお風呂へとベティは向かった。
体が気持ち悪いというのももちろんだが、気分を変えたいというのが本音だ。


ベティはシャワーを全開にして、頭からかぶった。
暑いお湯が、汚れをさっぱりと流してくれる。



子供の頃は始祖の隷長に狙われた。今度は星の記憶。


こうまでいくと、生きることが許されないのかとさえ、思えてくる。

皆には全部終わったら、と言ったが、ベティの本音は諦めに近かった。

都合よく解決法がみつかるとは思えない、というより、無いだろう。
始祖の隷長でさえ、詳しいことは知らなかったのだから。



そして何より、あの時の恐怖がその全てだった気がした。


逆らえない、抗えない、もがく事すら許されない。そんな、恐怖。


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