満月と新月 | ナノ
満月と新月



あるべき姿



「星の記憶とは、名前の通り……この星の起源からの、記憶が集まったもの。死に絶えた生き物は全て、そこへ還ると言われています。エアルとなって……」


クロームは目を瞑り言った。

「思念体ってこと?……でもそんなことが……?」

リタはこめかみを押さえた。

「そんなすごいもんが、なんで生きてるベティを狙う?」

「………星の記憶は、ただ集まっているだけではないのです。星の魂と呼ばれる、統率者によってまとめられています。そして、時折……その星の魂によって、地上から星の記憶に"持っていかれる"んです……」

「………持って…いかれる…」

ベティはゾフェル氷刃海での感覚を思い出して、ぶるりと身を震わせた。

「ちょっと待って、なんで持って行かなきゃならないわけ?」

「……そこまではわかりません。私も聞いた話ですから」

「持っていかれたら、どうなるのじゃ?」

パティはぎゅっとベティの手を握った。

「……もう、地上へは戻れないと言われています」

クロームは目を伏せた。

「あたしはいつ、消えるの?」

ベティはまっすぐクローム見た。


「力が目覚めた時です……どのような力かわかりませんが…」


「……じゃあ、あれは脅しだったのね……意地悪ねん…」

ベティはパティの手を握り返した。

「他にも疑問はあるでしょうが、私が知っているのはそれだけです」

「どのくらい時間が許されるのか、わからないわね」

ジュディスは眉を寄せた。

「その力が何かもわからない……でも、目覚めないように回避させればいいのよね……」

リタはうんうん唸りながら、まぶたを閉じた。

「そんなこと、出来るの?」

カロルはリタを見つめた。

「やるのよ!」

リタはカロルに勢いよくチョップをお見舞いする。

カロルは頭を抑えて、うずくまってしまった。


「忘れたら、力も目覚めないわよん。今は星喰み!デュークの事もあるしねん」


ベティは明るく笑い飛ばした。




「………でも、全部終わってまだ大丈夫だったら、その時は協力してねん」



「バカね、同時進行よ」

リタはふんと鼻を鳴らした。

「心配くらい、させてください!今度は私がベティを助けますから!」

「皆で考えれば、深海のちょうちんアンコウのように、ピカピカ閃くのじゃ〜」






クロームはシルフとして、転生を果たし、精霊は五体が揃う事となる。
若干の不安を残しつつも、星喰みの事は順調に進んでいて、怖いほどだった。

風に煽られながら、再び細い道を戻る。

「デュークはなんで人間を嫌ってるんだ?」

ユーリはベティに言った。



「彼は元々、皇族に続くくらい身分の高い貴族でねん、昔は騎士団に居たらしいんだけど、人魔戦争の頃にはもう、デュークは始祖の隷長に身を寄せてたの」

「あんな世捨て人がねえ……」

リタは珍しく興味深そうに聞いていた。

「ふふ、あたしも想像できないってば。人魔戦争はその実、人を拒む始祖の隷長の独壇場だったらしいわん」

「確かにね。ひどいもんだったよ…」

レイヴンは眉を寄せた。

「でも、始祖の隷長にも、人に歩み寄りをみせる者たちは居たのよん。その中心になったのが、始祖の隷長の当時の長である、エルシフル。実はクロームのお父さん」

ベティはにっこりと笑った。

「始祖の隷長の親子?初めて聞いたわ……」

ジュディスが驚いた様子で言った。

「かなり珍しいらしいわねん。それで、史実としては人間側の勝利なんだけど………」

「デュークという英雄の活躍で、戦争は集結……じゃないの?」

レイヴンは顎ひげを撫でる。

「それ、アレクセイに聞いたの?エルシフルは、デュークと共に人間側につき、戦争を始めた始祖の隷長と戦って、勝利したのねん」

「そんな話、初めて聞いたぜ………」

レイヴンは驚きにだらしなく口を開けた。




「デュークとエルシフルは友達だった。本当に、友達……でも、その強大な力を恐れた帝国は、戦いで傷付き弱ったエルシフルを、殺してしまったの……」




「そんな……ひどい……」

エステルは口を覆った。

「なるほどな…人間が嫌になるわけだ」

レイヴンはため息をついた。

「……陰でそんなことがあったのね…」

ジュディスは、遠いあの記憶に、思いを馳せているようだった。戻らない、故郷に。



「あいつがどんなキツイ裏切りにあってても、それがすべての人間を犠牲にする理由にはならねぇよ」



ユーリの言うことはもっともで、デュークの行為は、始祖の隷長を狙うクリント達と変わらない。



「生きてる限り、人は変われるじゃん。デュークの頭張り倒して、止めてやんないとね」



ベティは星喰みに覆われた空を見上げた。


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