満月と新月
風吹きすさぶ大地
バウルはウェケア大陸へと向かう。
風吹きすさぶ大陸は、寂しいほどに緑がない。
「どの辺で降りたらいいのかね?」
レイヴンは甲板から茶色い大地を覗き込んだ。
「バウルが連れて行ってくれるから、心配ないわよ、おじさま」
ジュディスの妖艶な笑みに、レイヴンはデレッと鼻の下を伸ばす。
「しっかし何もねえとこだな」
風が強すぎて下まで降りれず、とりあえずバウルに降ろしてもらった場所からは、だいぶ下まで降りないといけないようだった。
高台から続く細い坂道を降りて、ひたすら下を目指す。
「これ、下りはいいけど、帰りがきつそうだってばぁ…」
ベティは降りてきた細い道を見上げて、ため息をついた。
「やめて、ベティちゃん。帰りは言わないで」
レイヴンがふらりと倒れこむ。
「あ、死んだ」
リタが呟く。
「グルルルルルッ」
ラピードが何かに気付き、うめき声をあげる。
視線の先には、さらりと長い銀髪をなびかせ、顔色ひとつ変えずに登ってくる、デューク。
「おまえたち……!」
デュークは想像もできなかったメンバーに、目を見開いた。
「デューク!!ユーリを助けてくれてありがとう!」
ベティは勢いよくデュークに抱きついた。
それでも彼は、眉ひとつ動かさない。
「相変わらず、神出鬼没だな」
ユーリはそう言いながら、ベティを引き剥がした。
「………ここでなにをしている」
デュークの赤い瞳からは、感情は読み取れない。
「クロームに会いにきたのよん」
「精霊になってもらうためにな」
「精霊とは?」
「始祖の隷長を聖核を経て転生させた存在よ」
ジュディスが言った。
「その力で、エアルの問題を根本的に解決できるかもしれないんです」
「エアルをマナに変換させて、ね」
リタがエステルの言葉に補足を加えると、デュークは眉を寄せた。
「お前たち、世界を作り変えようとでもいうのか?人間が引き起こした問題のために………傲慢な……」
「世界の仕組みが変わっても、世界が滅ぶよりいいじゃなぁい?それも、人間であることの責任の取り方でしょん」
「たとえ始祖の隷長が認めても、私は認めぬ……私はこの世界のあり様を守る」
「前にも言ってたな。じゃあどうやって世界を守るんだ?」
「お前たちの邪魔はすまい。が、私の邪魔もするな……」
デュークはそう言って、ベティの頬に触れた。
「星の記憶に追われているようだな……においをつけられている」
デュークの言葉に、皆が驚き目を見開く。
「どうしてわかるのん?」
ベティはデュークの手を払った。
「………この先は世界で最も古くから存在する泉のひとつ。相応の敬意を払うがいい」
デュークはそう言って歩き出した。
「肝心な話は、答えてくれないのね」
ジュディスは厳しい視線を向ける。
「……さらばだ。もう会うこともあるまい」
「なにも、わからず仕舞いですね……」
エステルは悲しそうに俯いた。
「デューク、きっとやばいことやらかすわよん」
ベティはため息をついた。
「それより自分のことでしょ」
カロルはベティに言ったが、彼女はひょうひょうとしていて、たいして気にも止めていないようだ。
「……あいつには期待してないわよ」
リタはそう言って、さらに下へと歩き出した。
随分歩いて、何とか一番下まで降りて、洞窟らしき所に入れば、中は光り輝く泉だった。
レレウィーゼ古仙洞はここで間違いないだろう。
「……ここのエアル、すっごく気持ちがいいわねん」
ベティは辺りを見回して、クロームを探した。
「空気も澄んでて、とっても神秘的ですね」
「来ましたね」
奥から現れたのは、クリティア族の女性。クロームだ。
「アレクセイの仇打ちってわけじゃなさそうだな」
「そっか、みんなはアレクセイの側近だと思ってるのねん。彼女は始祖の隷長、クロームよん」
ベティは嬉しそうに笑った。
「え?!始祖の隷長がアレクセイに仕えてたの?」
カロルが首を傾げる。
「バカっぽい……監視するために決まってるじゃない」
リタは大げさにため息をついた。
「デュークはあなた達を受け入れなかったでしょう?」
クロームはベティに微笑んだ。
「デュークが何をしようとしてるか、知ってるの?」
カロルが言えば、クロームはゆったりと頷いた。
「あの人は世界のために、全ての人間の命を引き換えにしようとしています」
「はぁ!?やっぱりそうきたわねん!!」
ベティは思わず大声で叫ぶ。
「ど、どうしてデュークはそんなことを?」
エステルが驚きながらも、クロームに言った。
「彼は人を信じていないのです。私も人を信じてはいません。ですが、彼が同族に仇なす姿はみたくない……世界が救えるのであれば、協力は惜しみません。あの人を止めてあげてください……」
「ボクたちを助けてくれたり、剣だって貸してくれたのに……」
「少しは、信じようとしてくれたのかもしれないけど、デュークの痛みはもっと大きいわ。だからこその、決意かもねん……極端だけどぉ」
ベティはふうっと息をはいた。
「ねえ、精霊になる前に聞いておきたいんだけど……」
リタが睨むようにクロームを見つめた。
「……星の記憶……ですね?」
クロームは視線を地面に落とす。