満月と新月 | ナノ
満月と新月



輝ける森



エレアルーミン石英林は最近できた大きな島の、結晶の森。
中に入ると、キラキラと輝く幻想的な風景が広がる。

「ここが結晶化の中心みたいだな」

「きれい……夢の中にいるみたいです……」

エステルはうっとりと辺りを見回した。

「………目がチカチカするわねん」

ベティは目をこすった。

「低密度で結晶化したエアル………いや、マナ?サンプル採取しておかなくちゃ!」

リタは近くの結晶を集めだす。

「うーむ。お宝だらけじゃが、船には運び切れんのじゃ」

パティは双眼鏡を覗き込む。

「バリバリ砕けるよ!おもしろーい!」

カロルは楽しそうに結晶を足で踏んで、砕いている。

「……反応がこうも違うとはね」

レイヴンは大げさに肩をすくめた。


「のんきなもんね……これ自然現象じゃないわよ」


リタは腕を組んだ。
サンプル採取は終わったようだ。

「結晶化によって生まれた新たな大地……ここにそれを行った何者かがいる」

ジュディスはにっこりと笑った。

「それに、エアルクレーネもね」

リタは結晶化した洞窟の奥を見つめた。


「なんだか、その割にはエアルが安定してないわねん」


ベティは心配そうに言った。
突然何かを見つけたラピードが吠えたてる。
「ワンワンッ」
ユーリがそれに近づくと、沢山の足跡が目に入った。

「どうやら先客がいるらしい。みんな気をつけろよ」






辺りを気にしながら進むと、視線の先に何かが目に入った。

「……!ナン!?」
ベティは思わず駆け出した。

カロルも気づいて後を追いかけ、皆もそれに続く。

「どうしたの?ティソンは?」

ベティは治癒術をかけながら、心配そうに声をかけた。

「……ベティさん」
ナンが力なく呟く。

「ナン!しっかりして!」

カロルがそばに駆け寄る。

「……カロル?」

「ナンを置いてくなんて、ティソン何考えてんのかしらん?」


「師匠は……迷いがあるからだって……」


ナンは悔しそうに俯いた。

「魔物は憎い、許せない。でも今はこんなことより、しなきゃいけないことがあるんじゃないかって、それを話したら……」

「置いてかれたってか……」

「ひどいよ!ナンは間違ってないのに!」

「落ち着けカロル。……なぁ、魔狩りの剣の狙いは始祖の隷長だろ?」

ユーリの言葉にナンは静かに頷いた。

「急いだ方がよさそうね」

ジュディスが奥に目線を向けた。



「……奥に行くほどエアルが乱れてる…何かあったのかもしれない…」


ベティは眉を寄せた。

「ナン歩ける?一緒に行こう」

カロルが手を差し出したので、ナンは戸惑いながらも、その手を握った。






奥へと進めば、エアルクレーネがあった。
あたりは濃いエアルで満ちていて、グシオスがクリントとティソンと対峙していた。

「……!やめて!ティソン!クリント!」

ベティは駆け出し、濃いエアルを調整しながら、グシオスとの間に入った。
その体は淡く光っている。

「ベティ!邪魔すんな!」

ティソンが怒鳴る。

次の瞬間、グシオスは咆哮をあげ、エアルを吸収し始める。
それを見てベティは、ざわりと胸が騒いだ。

「グシオス!これ以上エアルを取り込まないで!」

グシオスは途端に暴れ出し、ティソンとクリントを吹き飛ばした。
倒れこんでうめき声をあげる2人にナンが駆け寄る。

グシオスはさらに咆哮をあげる。

「グシオス!どうしたというの!?」

ジュディスが叫んだ瞬間、グシオスは尻尾を振り回し、さらに暴れ出した。


「ベティ!危ない!こっちに来い!」

ユーリがベティの手を引いて引き戻す。

「ユーリ!このままじゃグシオスが!」

「星喰みとなる……」

ふわりと姿を見せたのはレミエル。
続いてウンディーネとイフリートも姿を見せた。


「なんだこいつら……」


クリントは目を見開いた。
ティソンとナンもあっけに取られている。


「精霊よ」


ジュディスは厳しい口調で言った。

「星喰みになるって……」

カロルが不安気に精霊達を見る。

「始祖の隷長とて、無限にエアルを取り込めるわけではない。その能力を超えた量を取り込めば、耐えきれず変異をおこす……」

ウンディーネは悲しげにグシオスを見た。

「それじゃあこいつらは、世界を守ろうとしてあんなんなっちまってたのか……」

ユーリは悔しそうに言った。

「……救ってやってくれ、この者がまだ、グシオスという存在であるうちに」

イフリートはそう言って姿を消すと、ウンディーネとレミエルもふわりと消えた。

皆、決意したように武器を構えた。



グシオスには理性が感じられず、わけもわからずに暴れていると言っても過言ではない様子だ。

これ以上エアルを取り込めば、本当に星喰みになってしまう。

ベティは汗ばむ拳を握りしめ、リタの隣に並んだ。

ユーリ達の剣の音が響く。



「リタ、あれ覚えた?」

「……あたりまえよ」

「さすがね……いくわよ」

ベティはクスリと笑って、リタと目を合わせた。

エステルの光の魔術が放たれ、ただでさえ眩しい洞窟の中で、2人の顔がさらに明るく照らされ、真剣な視線が交わる。



キンッとユーリの剣の音がしたかと思えば、ジュディスの華麗な槍さばきも、耳に慣れた音として響く。
ずいぶん沢山、この仲間たちと戦った。
パティの小気味良い技の音、レイヴンの的確な弓の音、カロルが叩きつける剣の音、ラピードの素早い剣さばきの音。
どれも、呼吸するようにわかる。
仲間がどう動いているのかも。


リタがこくりと頷いたので、ベティはグシオスを見た。



「「天光満つる処に我はあり」」


術式が2人を取り囲む。


「「黄泉の門開くところに汝あり」」


洞窟の中に大きな雷雲が立ち込め、バリバリと音をならす。


「「出でよ、神の雷!!インディグネイション!!」」


2人が声を合わせれば、グシオスめがけて、激しい雷が降り注いだ。
そのままグシオスは動かなくなる。


ベティはグシオスに近づき、そっと触れた。

「ごめんなさい。また守れなかった……」

ベティの言葉にグシオスは優しく笑ったような気がした。
体は光に包まれ、小さくなっていき、後には聖核が浮かんでいた。

「グシオス……」

ジュディスも、なんとも言えない顔で聖核を見た。


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