満月と新月 | ナノ
満月と新月



世界を護るもの



ノードポリカでは砂漠で戦った、本物の星喰みの眷属が街を襲っていた。

戦士の殿堂でも歯がたたないようだったが、ユーリ達は苦もなくそれらを倒していった。
精霊の力の影響だろうか。


ナッツに呼ばれたが、ベティはリタを連れて、結界魔導器の所へ向かった。


「ごめんね、なんだかエアルの消費が激しいような気がするのよん」

「……ヘルメス式ってこと?」

「ううん、たぶん結界」

結界魔導器のところまで来ると、リタは操作盤を開いた。

「ほんとだ、出力があがってるわ」

「きっと、何かと物騒だから上げたのねん」

「まぁ完全に逆効果みたいだけど」

リタは大げさなため息をついた。

「あのさ、リタ」

「なによ?」


「精霊って、その主的なのも、居たりするのかしら?……たとえば……この星」


「さあね。でももし、氷の上で何か見たなら、それは精霊なんかじゃないわ」

「見たなんて言ってないわよん」

「視線があきらかに何かを捉えてたわよ。でも、精霊、少なくともあたしらの知ってる精霊と同じ存在なら、あんたがあんなに恐怖に震えるようなことはしないわ」

「なんで?悪い精霊かもよぉ」

「善悪は人が決めたものでしょ。そんなの精霊には通用しない。ただ、精霊にとっては、人を怯えさせたり、喜ばせたりする必要はないのよ」

「なんでわかるの?」



「精霊が人の形を成していても、人じゃない。聖霊は世界を守るための存在なのよ。そこに個々の意思は入らない」



「……確かにそうねん。レミエルが昔言ってたわ。種が続き、星が栄える。それが役目だって」

「……さあ、終わったわ。戻りましょ」

リタはくるりと踵を返し、スタスタと先に行く。

「せっかちねえ」

「……もしまたなんかあったら相談しなさいよ。氷の上で見たやつの事も、話してくれたらちゃんと協力するから」

こちらを見ずにリタは言ったが、耳まで真っ赤だ。
ベティは嬉しくなって、リタにじゃれついた。





広場に戻ると、ユーリ達に合流した。

「ベティ姐!気になることはもうよいのか?」

パティがベティに勢いよく飛びつく。

「うぃ、結界魔導器の出力が上がってたわん。それでここに星喰みが引き寄せられたみたいねん」

「それ、戦士の殿堂に言っとかないとね」

レイヴンが自身の無精髭を撫でた。




「なあ……世界に存在する魔核って相当な数だよな」

「そうですね。まだ今も発掘が続いてますし」



「魔核って聖核のカケラなら、精霊五体で足りない時はそれも精霊に変えちまえばいいんじゃねえか?」



「無茶言うわね。世界中の魔核ってどうやってやるのよ」

「魔核をひとつひとつ回るわけにはいかないものね」

「………魔核同士の繋がりがあれば、解決じゃなぁい?」

「なんとかしてくれるだろ?専門家さん」

ユーリはニヤリと笑って、リタを見た。

「簡単に言わないでよ」

リタは腕を組んだ。

「でもさ、それが実現したら、世界中の魔導器が使えなくなっちゃうよ?」

「魔核がなくなるわけだから、そうなるわな」

レイヴンが言った。

「結界に守られていた安息はなくなり………照明や井戸水の汲み上げも、かなり難しくなるわね」

ジュディスはさして不安もなさそうに言った。

「武醒魔導器もだめになるよね?結界もないのにまずいんじゃ……」

「なに、魔導器がなくても、うちはオールで海原を渡ってやるのじゃ」




「でも、レイヴンの魔導器はどうなるのぉ?」




ベティの言葉に、皆がレイヴンを見た。

「そうですよね……レイヴンの魔導器も……」

「それはないわ。生命力で動いてる限り、魔導器はあくまでおっさんの体の一部だから」

リタはあっさりと言い切ったので、レイヴンもどこかホッとした様子だった。

「そっか、じゃあよかった!」

「おっさんも、まだまだ生きろってことかね」

レイヴンははにかむように笑った。

「にしても、魔導器を手放すことを嫌がるやつは多いだろうな」

「それでもやるのよ。世界がなくなるより、不都合な事なんてないってばぁ」

ベティは空を見上げた。

「魔導器文明を終わらせ、代替エネルギーを探す……研究者冥利に尽きるわよ」

「あら、いいの?魔導器、好きなのに」

ジュディスはリタに笑顔を向けた。



「いいのよ。もっと大切なことがあるってわかったから」






ひとまず、フェローに会うべく、バウルと共に砂漠の岩場へと向かう。
船首に立つパティに声をかければ、困ったような笑顔が返ってきた。

「麗しの星、手に入ったのねん」

ベティが甲板から見上げたパティは、不安でいっぱいな顔をしていた。

「うち、サイファーを救ってやらなくては……」

「ごめんね」

「なんでベティ姐があやまるのじゃ?」

パティは驚いたようで、目を丸くした。



「あんなでも、あたしの父だから……」



ベティは悔しそうに言った。
アレクセイの行動は、たくさんの人を泣かせたから。

「でも、ベティ姐があやまることではないのじゃ」

「………英雄の娘から、大罪人の娘になっちゃった」

ベティはくすりと笑った。


「本当の父親のことは、覚えておらんのか?」


パティの問いに、ベティは困ったように笑って、船室へと歩いていった。


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