満月と新月
ユニオン
翌朝、ベティはすっかりケロッとしていて、顔色も良かったので、ユーリと宿屋に向かった。
ダングレストは相変わらずだが、それでもユニオンで話し合いが持たれているからか、下手な事をしようというような気配はなく、ベティはホッとした。
久しぶりの外の空気と、ユーリが居る事で、彼女はすっかりいつもの調子に戻っている。
宿屋にはレイヴン以外が揃っていて、各々くつろいでいた。
「りぃいたぁぁ!」
ベティは本を読んでいたリタに勢いよく抱きついた。
「なっなんなのよ?!」
リタは顔を真っ赤にして固まった。
「わかったのねん!?さすがリタ!」
「当然よ!約束したでしょ……」
リタはふいっと顔をそらす。
「エステルも!これでもう、安心よねん」
ベティはエステルにも抱きついた。
「はい!」
エステルは嬉しそうに笑った。
「ベティ姐〜!!」
ベティの後ろからパティが勢いよく抱きついた。
「おわっ!どしたのん?」
「うち、心配したのじゃ!元気になってくれて、嬉しいのじゃ!でも、ちょっと痩せすぎなのじゃ!うちが特製おでんを作るからたくさん食べるのじゃ」
ベティは嬉しそうに笑って、パティを抱きしめた。
「うん!食べる!」
そう言ってパティを抱きしめたまま転がり回る、ベティ。
姉妹のじゃれあいにしか見えないのは、髪色のせいだけではないだろう。
「ちょっと、説明はいいの?!」
リタが声を上げる。
「ん?仕組みなんか聞いても意味わからないものぉ」
「確かにな」
ベティの言葉にユーリが頷いた。
「2人とも、結構適当だね……」
カロルがため息をつく。
「まぁいいわ。とにかく聖核よ!あれがいるの!蒼穹の水玉を手に入れないと」
「あら、おじさまがなんとかしてくれるのではなかったかしら?」
ジュディスは楽しげに微笑む。
「レイヴンなら、ユニオンだね!」
カロルが言った。
「ねえ、もしかして…ベリウスに会える……?」
ベティはリタを見つめた。
「……樹の主は始祖の隷長だった時の記憶、あるのよね?」
「ええ、あるわねん」
「じゃあ、問題なければベリウスの時の記憶はあると思う」
「そっかあ……なんか変に期待しちゃうわねん。不謹慎でごめんねぇ」
ベティは嬉しそうに笑い、くしゃりと自身の髪をかきあげた。
「私も、少し楽しみなのよ」
そう言ってジュディスも微笑んだ。
ユニオンでは会議が開かれている最中だったようで、会議室からは怒鳴り声に近いほど、大きな声が聞こえる。
「もめてんのか?」
ユーリはベティを見た。
「うぃーこの二週間ずっとこんな感じ」
ベティは肩を竦めた。
「レイヴンも会議かな?」
カロルもうんざりした様子だ。
「いまは入りたい雰囲気ではないわね」
ジュディスが言った。
まさにその通りで、扉越しでも嫌な空気が伝わってくるので、頼まれても中に入りたい雰囲気ではない。
「もうやめてくれ!俺にはそんな資格はない!」
勢いよく会議室の扉が開き、ハリーが飛び出してきた。
ベティはあわてて彼の腕をつかむ。
「なんなんだよ!もうほっといてくれ!」
ハリーがその手を振り払おうとするが、ベティは意地でも放すかと、ぎゅっとつかんだままだ。
「ベティ!もういいだろ!俺たち暁の雲が仕切ってやるよ!」
暁の雲のボスの男が声を上げる。
「冗談はやめろ、君のギルドはあのザウデとやらに手下をおくりこんだだろう」
「そうだ!帝国との敵対行為ととられかねん!」
天を射る矢のメンバーでもある、ユニオンの幹部たちから、怒鳴り声があがる。
「暁の雲が帝国の風下に立ったことは一度もねえんだ!そうなったら一戦やらかすまで!」
「てめえみてえなザコがってか!ドンが聞いたら大笑いするぜ!」
「だったら天を射る矢のてめえが指揮してみろよ!人望のなさで自滅だろうがな!」
「いいかげんにしな!!」
ベティが扉を勢いよく殴った。
皆が驚いて彼女をみつめ、しんと静まり返る。
「今は帝国なんかどうでもいいのよ!これからの自分らを考えな!ユニオン誓約も守れないわけ!?そんなんじゃ足もとすくわれるわよ!」
彼女の言葉に会議室の男たちは静まり返ったまま何も言わない。
「アホくさ。この世の終わりまでやってろ」
ユーリはくるりと踵を返す。
「みんなで助け合えばいい!ドンが最後にボクに言ったんだ!仲間を守れば、応えてくれるって!ユニオンが、どうしてそれじゃだめなの?!」
カロルの言葉に、皆互いの顔を見合わせる。
「ドンは自分の足で歩けって言った。それがどういうことか、わからないほどガキじゃないでしょ」
ベティもそのままユーリに続いたので、カロルたちも後を追いユニオンを出て行った。