満月と新月
ユニオンの混乱
それからジュディスに、ダングレストで降ろしてもらった三人はユニオンへ向かった。
やはり、皆は殺気立っていて、ドンが居ないことも、混乱に拍車をかけていた。
ひとまず、明日会議を開くことには皆が同意してくれたので、ベティは部屋に戻った。
扉を閉めると、力が抜けて、急に心細くなった。
ユーリは居ない。
でも、しっかりしなければ。
「バチが……あたったかな……」
ベティは膝を抱えた。
次の日いくつかのギルドが集まり、会議を開くこととなったが、核となる人物が居ない今、有意義な時間になるはずもなく、ギルド間で言い争いまで始まってしまった。
もちろん、ベティをよく思っていない人も居るので、火種はこちらにも飛んできた。
彼女を庇う人は多く、彼女自身もそんな事に取り合うはずもないのだが、そんな事を1人が言い出そうものなら、次々に話は別の人物の批判に飛び火し、野次まで飛ぶ始末。
ベティもレイヴンもため息をついてしまった。
結局何の意味もなさないまま、明日に持ち越される事となる。
「さすがに一喝する元気もないか……」
レイヴンが、会議室を出て行くベティの後姿を見つめ、ぽつりと呟いた。
ベリウスの死をきっかけに、彼女の人生で大きな意味をもつ人物の死が、怒涛のように重なった。
おまけにユーリは行方不明。
レイヴンは彼女にかける言葉も見つからなかった。
ベティは鉛のように重い気持ちだった。
会議室を後にして、思わずため息が漏れる。
イエガーはザウデで亡くなったと聞いた。
ゴーシュとドロワットは、どうしているだろうか。
あの時、もっと話を聞いていれば、もしかしたら避けられた犠牲かもしれない、そう思うと、自分の不甲斐なさに胸が締め付けられる。
もし、だなんて意味はないが、それでもゴーシュとドロワットの気持ちを考えれば、そう思わずにはいられなかった。
「ベティ」
ユニオンに居るのは珍しい、夢歌の音のリリに声をかけられた。
「元気ないわね……って無理もないか」
リリは力なく微笑んだ。
「なかなか、会議も意味なくてねん」
「内輪揉めしてる場合じゃ、ないのにね」
リリも肩を竦める。
「まぁ、色々とありすぎたもんねぇ。仕方ないんだけどぉ」
明るく振舞うベティだが、やはり疲れが滲んでいる。
「ゆっくり休んで?ベティってば、辛そうな顔してる」
「ねえ、落ち着いたら、ギルドメンバー総動員で、ライヴしたいわねん」
「あら、いい案ね!それまでに、しっかり体力つけてよ?」
リリは楽しそうに笑うと、ユニオンを出て行った。
ここは血生臭くて、居心地が悪いと彼女はいつも言っていて、ライヴの許可を取りにくる以外に、彼女がユニオンの建物に出向くことはない。
それでもベティを心配して来てくれたのだろうと思うと、しっかりしなくては、とベティは自分に喝をいれた。
なんとなく、彼女はドンの部屋に向う。
扉を開ければ、見慣れた大きな鞄を下げたカロルが居た。
「あ!ベティ!会議どうだった?」
カロル率いる凛々の明星はユニオンには入っていない。
おまけに新興ギルドなので、今回の会議には呼ばれていない。しかしカロルなりに、色々とやってくれているようだ。
「どぉもこぉも、最後は口喧嘩みたくなったってばぁ」
ベティは大げさに肩を竦めた。
「そっか……ドン、今のボクらをみたらあきれちゃうかな」
「そうねん……怒られるわねん、きっと」
ベティはドンの椅子の前で、あぐらをかいて座った。
「そうだね…なんとかしないとね!」
明るく言ったカロルの言葉は、本当に希望や意欲に溢れていて、ベティはすこし眩しく思えた。
こんな風に、人の事を見てしまうほど、今の自分は暗いのか、とすこしがっくりする。
「みんなそれぞれ、頑張ってる。あたしもしっかりしないとねん」
「でも、ベティが言い出さなきゃ、会議なんてしないで、あのまま嫌な空気だったと思うよ。だからあんま無理しないでね」
カロルは心配そうに言った。
「あらら、そんなあたしやばい?さっきリリにも似たようなこと言われたぁ」
「やばいって言うか…なんかベティっていつも、輝いててかっこよくて、強くて頼れるから、ボク甘えちゃってたと思うんだ。だけど、ベティだって辛い時もあるんだって、あたりまえだけど、今更思って……なんかごめんね」
えへへっと頬をかいたカロル。
その言葉にベティは思わず笑顔になった。
「できること、できないこと、みんなそれぞれ違うから、それを補い合っていくのも仲間でしょ」
ベティは嬉しそうに言った。
カロルもそうだよね、と明るく笑う。