満月と新月
伝承の真実
ベティが砂埃のなかから姿をみせると、皆はホッとしたように眉を下げた。
「ベティ!無事だったんですね!よかった!」
「ユーリ……は?」
カロルが心配そうに見つめた。
「海に…………落ちた……」
ベティはぐっと涙を堪えた。
「うそでしょ!?」
リタが真っ青な顔をする。
「さ、捜しにいかないと!」
エステルはオロオロと皆を見回した。
皆も信じられないといった様子で、青い顔をしている。
「うん、降りよう……早く見つけなくちゃ……」
ベティはぎゅっと拳を握りしめ、歩き出した。
船をつけたところでフレンにも事情を説明すると、焦った様子で捜索する、と走り去った。
それから日が落ちるまで探しても、ユーリの姿を見つけることはできなかった。
ベティは立っていられないくらい、気分が悪かった。
何もかもが真っ暗に感じて、吐き気がする。
寒い、震えがとまらない。
ジュディスがそっと肩に触れた。
「大丈夫よ、見つかるわ。彼のことだもの」
安心させるような優しい笑顔で言った。
「みんな聞いて。どうしても、今のうちに話したい事がある」
ベティはぎゅっと目をつむると、深呼吸して皆に向き直った。
「ミョルゾで話し損ねた、伝承の真実を」
ベティの言葉に皆、真剣な眼差しをむけた。
「もうわかるだろうけど、このザウデは、星喰み専用の結界魔導器で、二つの要素で成り立ってる」
ベティは空を見上げた。
「まず、空に打ち上げられた凛々の明星(りりのあかぼし)。これは新月の子の力を元に、空に打ち上げられた。そして地上のザウデはメインシステムとして、満月の子の生命力で動いてる。半永久的に」
「満月の子の……」
エステルがぎゅっと手を握った。
「そっか、エアルを使えば星喰みにとってはよくないわよね」
リタは真剣に頷く。
「そして、新月の子と満月の子の大きな違い……新月の子はその身からエアルを産み出す。体内にエアルクレーネを持っているようなものなの」
「エアルクレーネ!?」
「そう。その力はずっと満月の子に疎まれてきた。そして、そのエアルを原動力に、当時五人いた新月の子は、空へと生きたたまま上った」
「生きたまま……」
「もちろん、上り切る頃には事切れてしまったでしょうけど……」
「でも、エアルを使ったの?空へなんて、どんでもないエネルギーじゃ……」
「その通り。だから彼らの産み出すエアルによって、総量を増やさないために、それをすぐに物質に換えるシステムを作ったの」
「そうすることで、安定させたのね……」
「それはね、樹の主があたしにしてくれてる事と同じなの」
「じゃあ樹の主は変換機の役割……」
「それでね、リタ…エステルの事で、あたし気付いた事があって、リタにお願いしたいことがあるの」
「いいわよ!いいなさい!」
リタはなんでも来いと言わんばかりに、ぐっと拳を握った。
「樹の主はもともと、始祖の隷長だったの」
「それって……!」
さすが天才と言われるだけある、リタは何か気がついたようだ。
皆は驚いて顔を見合わせている。
「魔核は聖核。そして聖核は始祖の隷長……つまり、結界くらい大きな魔核なら、そこに始祖の隷長の意思が残っていてもおかしくない」
「そういえば、ヘラクレスで聖核から声が聞こえた気がした…」
カロルが言った。
「そうね、たしかにあれは聖核から聞こえたわ」
ジュディスも頷いた。
「聖核は何か条件を満たせば、樹の主の様な存在に生まれ変わると思うの。だから、その条件をリタに突き止めてほしい」
「わかった!!あたしはもっと詳しくザウデのシステムを調べて、ヒントが無いか探してみる!約束する、必ずつきとめるって」
そう言ったリタは、研究者の顔で、とても15歳とは思えない。
「あと、これは多分だけど、星喰みにも樹の主の力は有効かもしれない」
「どういうこと?」
「砂漠で変な敵と戦ったでしょ?あれはフェローの幻だけど、星喰みの一部なの」
「あれが!?」
「あんなのうじゃうじゃ襲ってきたらひとたまりもないよ!」
カロルが目を見開いた。
「そうなんだけど、みんなの攻撃はあまり効いてなかったんだけど、あたしの攻撃には反応したの」
「それって……違いは樹の主ってこと?」
リタはこめかみを押さえた。
「うん、多分だけどね。あたしは、あんまり専門的なことわからないから」
「わかった!それも含めてなんとかしてやるわよ!」
「まだ結界は動いてる、いつまで持つかわからないけど、まだ間に合うから………」
「ねぇ、みんな。ユーリを信じて、自分たちの出来る事をやろう」
カロルが言った。その顔はギルドのボスに相応しく、凛々しいものだった。
「そうね、ユーリが戻った時にしかられちゃうものね」
ジュディスがくすりと笑う。
「そうじゃの、ユーリならきっとピンピンして現れるに違いないのじゃ」
「じゃ、ひとまず俺様はダングレストに戻るかね」
レイヴンが言った。
「ボクもそうする」
「あたしはザウデの調査ね」
「だったら私も手伝うわ」
「うちも手伝うのじゃ!」
「わたしはお城へ戻ります。色々と混乱しているでしょうし」
皆はベティを見た。
「んじゃぁ、あたしはダングレストねん。きっとザウデのせいで、また一悶着ありそうだし」
ベティはにっこりと笑った。
皆、無理な笑顔なのはわかっていたが、落ち込んだ空気を払うために、何も言えなかった。