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「だ・・誰もいない船なんてありえるの・・?」
Amour Amour Amour怪しい貨物船の中に入ると、なんと人っ子一人見当たらないという奇妙な現状に直面した。
「なんだこの船は・・・操舵室に船長もいない!無線室に技師もいない!誰もいないぞ!それなのに計器類は正常に作動しておるッ!どうやって動いておるんじゃ この船は!?」
ジョセフさんはバタバタと船内を確認した後、こう言った。
「えぇっ・・・まさか難破船とかじゃあないですよねっ?」
こんな急にホラーな展開になるのは辞めてほしい。怖いのは苦手なのだ。
「全員ゲリ気味でトイレにでも入ってるんじゃねーのかァッ?」
「ポルナレフ下品・・・イヤダワコウイウヒト」
「冗談だよ、なんでカタコトなんだよ。」
まったく真面目な時に何を言ってるんだろう。呆れながらふと周りを見渡すと、女の子がとある一室に入っていったのが見えたのでナマエは後を追いかけた。
「おーい、一人で動いたらあぶないよーぅ・・・」
部屋に入るとデッカイ檻があり、その檻の前に家出少女がいる。
「あっナマエさんッ!この猿すごいんだよ!タバコ吸ったりエロ本読んだりしてるのッ!」
「えぇッ?猿なんているのぉ・・・?!」
ナマエが驚き檻に近づくと大きなサル(これどっちかといえばオラウータンじゃないかと思ったけど)が王様のようにくつろいだ様子で座っていた。
「へぇ〜〜・・・確かに、すごい賢そうだね」
でもなんか不気味。あんまり近寄らない方がいいかも。
「おい!君たち!あまりその檻に近づくと危ないぞっ」
乗組員の人たちがそう忠告してくれた。
「さっ、じゃあジョセフさんたちのところ戻ろう」
少女の背中を押して外に向かおうとする。
・・・
その時背後から見られているような感覚がした。
なんかこう、ねっとりとした視線が身体をはしったような・・・
いいや、きっと気のせいだ。なんか怖いし外に出よう。
ジョセフさんと合流し、みんなでこの船の状態やこれからの操舵に関して話していると、
突然何かに気付いたようすのジョセフさんが、「危ないッッ!!!」と叫んだ。
ビックリして振り返ろうとしたところ、隣に立っていたポルナレフが「ナマエ、お前は見ない方がいいぜ」と言って大きな手で私の目を覆った。
見ない方が良いと言うぐらいなんだから、確かに見ない方がいい光景が広がっているんだろう。でもこれからの旅、見たくないものから目を背け続けていたら足手まといにしかならないだろう。
「ポルナレフ・・・ありがとう。でもだいじょうぶだから。」
そう言ってポルナレフの手を外すと、ショッキングな形で水夫が殺されている姿が見えた。
「・・・うっ」
エグい。エグすぎる。覚悟していたはずだけど相当見るに堪えない残酷な殺害方法だ。
こんな殺し方をするスタンド使いがこの船に潜んでいるなんてゾッとする。
「どうやらこの貨物船は我々を救出するためにではなく、確実に皆殺しにするために来たらしい・・・」
ジョセフさんが神妙な顔で言った。
とはいえ相手がどこにいて、どう攻撃したのかまったく分からなかったため、花京院くんのハイエロファントで船内をくまなく調べることになった。
「ねぇナマエさん、私さっき海に飛び込んだからシャワー浴びたいんだけど・・・」
女の子がナマエの服の袖をひっぱって小声で言った。
「そっか、そうだよね。このままだと気持ち悪いし風邪引いちゃうよね。下にシャワールームがあるってさっき誰かが言ってたからついていってあげるよ。でもこの船危ないから誰かほかにもう一人付いてきてもらおうか?」
そういうと女の子はブンブンと首を横に振った。
「パッと浴びるだけだから、ナマエさんが付いてきてくれれば十分だよ。時間はとらないから。」
女の子はずいぶんナマエを頼っていてくれているみたいだった。船内に他に女性がいなかったからかもしれない。そんな女の子を見てナマエは「任せろ!私が守ってやんよ!」というムダに高揚した気持ちになっていた。
シャワーの水音が聞こえるカーテンの前でナマエは見張りをするついでにスタンドの自己研究をしていた。クイックシルバーを出して右腕を変化させる。旅に出る前にクイックシルバーは金属や鉱物を燃料にすることがわかったので、SPW財団を通じてすぐに必要な分の金属が手に入るように手筈を整えてもらっていた。金属なんてそこかしこに存在するが、純度の高い金属であればあるほど良質なエネルギーとして変換できると見込んだのでナマエのポケットには常に高純度の金属がごろごろ入っていた。これはいわば銃で言う弾丸のようなものであった。
しばらくすると何かおかしな異臭が漂ってきたことにナマエは気付いた。
「なんか・・・鉄臭い・・?」
高純度の金属を服のポケットにごろごろ入れてるからかしら?でもこの匂いはもっとこう・・・まるで血のような・・
そこでハッとしてナマエはシャワールームの扉を開けた。
「なっなななにこれっ・・・・嘘でしょ・・・」
ナマエの前にあったのは、さっきまで部屋で船の操縦について議論していた水夫たちの変わり果てた姿だった。
「たった数分でこんなことができるスタンド使いなんて・・・」
危険だ。危険すぎる!やっぱり誰か一人付いてきてもらうんだった。私一人が危ない目に合うならまだしも、今は女の子がいる。こんな一瞬で水夫たちを音もなく殺せるスタンド使いから女の子を守れるだろうか。
恐怖と緊張からか足が震える。
するとどこからか突然黒い物体が現れた。
「・・・・なっ・・さっきのサル・・?!」
信じられないことにさっき檻で見かけたサルが前方からいきなり現れた。
「あなたがスタンド・・・?!」
サルは無表情で自身のお腹をぼりぼりと掻いている。
何も答えないサルに対しナマエは警戒をし、目を離さないようにする。
すると突然後ろから背中に衝撃がきて前のめりになる。何故か船の換気扇がナマエにぶつかってきたのである。
「ったぁ・・・!」
「・・?ナマエさん?どうかしたのー?」
女の子の声が聞こえる。
サルはその瞬間間合いを詰めてこちらに向かってくる。
「クイック・シルバー!!」
ナマエは右腕をサルに照準を合わせて、熱弾を放った。
高い熱エネルギーを放出しながら爆風を巻き上げる。それによって瓦礫が舞い辺りが見えなくなった。
命中したかわからないけれどこれで少しは時間が稼げる!
ナマエは女の子の服を急いで掴むと、爆音に驚いてシャワーから出てきた女の子に服を持たせ、甲板に続く階段の方に押しやって叫んだ。
「早く逃げてッ!!私が時間を稼ぐからッ!!!」
女の子は突然のことに目を白黒させながらも、切迫した状況を飲み込んだのか、身体に巻きつけたタオルと服をぎゅっと握りしめて上へ向かって走り出した。
爆風がおさまって視界がクリアになってくると、目の前にサルの姿はいなかった。
「どこに・・・」
そう呟くといきなり足を掴まれた。
ナマエはバランスを崩し、音を立てて背中から倒れる。
すると大きな黒い塊が覆いかぶさるようにして姿を現した。
このサル・・・壁や床を自由に移動している・・!
サルはナマエを見下ろすと、ニイィっと笑った。
き、気持ち悪い――――ッッ!!!!
ナマエは全身に鳥肌が立った。目の前にはニタニタとしたサルが居るのだ。
「クイック・シル・・・」
クイック・シルバーでなんとか応戦しようとしたところ、右腕がなんと床と一体化していた。
「う、うっそ―――」
どどどうしよう。これではスタンドが全く使えないではないか!
そして、こんな状況になってようやくこの船の秘密がわかってしまった。
「あなたが本体で、この船がスタンドっていうわけね・・・。」
船がスタンドだなんていう発想はまるで無かった。もっと早くに分かっていればどうにかできたかもしれないものを!悔しい気持ちでサルをキッと睨む。
サルは全く歯牙にもかけない様子でナマエの着ているカーディガンに手をかけるとビリッと思い切り破った。
「んきゃ―――ッ!!!何すんのよこの変態―――っっ!!」
ナマエがじたばたするがビクともしない。
むしろそんなふうに暴れるナマエを見て勝ち誇ったようにほくそ笑んでいる。
し、死ぬほどむかつく。だけどこの状況じゃこのエロ猿に勝てない・・・ッ!
カーディガンを破かれてキャミソールだけになったナマエに興奮したのか、ヨダレを垂らしながら顔を近づけてきた。
いやだ―――っ!こんな変態バカエロ発情猿に襲われるのは―――っ
キツく目を閉じた瞬間、「オラァッ!!!」という声がこだました。
驚きに目を開くと、サルが5メートルほど先に倒れてピクピクしている。
「おい、ナマエ。大丈夫か」
「承太郎くーーーーん!!」
救世主が目の前に現れた。
神様仏様承太郎様ありがとうございます・・・!
心からそう思った瞬間だった。
サルはあまりに興奮していて承太郎が近づいているのに全く気付かず、結果スタープラチナの全力の打撃に吹っ飛ばされたのであった。
サルは明らかにもう再起不能であったが、ナマエはこのサルを可哀想に思う気持ちは全くもてなかった。
サルが再起不能になったことで、貨物船はその姿を保てなくなり、再び救急ボートへ避難するハメになったのだった。
承太郎くんに厚いお礼をして、崩れていく貨物船を脱出して救急ボートに乗り込んだところ、先に避難していた女の子に思い切り抱き着かれた。
「〜〜〜ッナマエさ〜〜〜んっ!!!ごめんなさい〜〜〜ッ!!」
ナマエはビックリして、泣きながら謝る彼女をなだめる。
「ナマエさんが私を逃がしてくれたせいで死んじゃったらどうしようかと思ったよォ〜〜〜〜〜っうわああ〜〜〜〜んっ」
えんえん泣く彼女をよしよしする。女の子は私の事を心配してくれていたらしい。
「あの後承太郎くんを呼びに行ってくれたでしょ?おかげで助かったよ、ありがとうね。」
女の子が承太郎くんを呼びに行ってくれていなかったら私は今頃どうなっていたかわからない。ナマエは女の子の頭を撫でながらお礼を言った。
オホンゴホンエホンッ
ポルナレフがわざとらしく咳をする。
「あのよォ・・感動の再会中に悪ぃが、その、ナマエ、その恰好ちょっと刺激が強いんじゃないか・・・」
ハッとナマエは自分の格好を見る。上着のカーディガンがサルに破かれたため、その中に着ていた薄いキャミソールしか着ていない。ナマエは今更になって恥ずかしくなった。
「とかいいつつナマエさんをガン見してんじゃないわよムッツリ男。」
と女の子が冷たい目線でポルナレフを見る。
「こ、このガキャァ〜〜〜ッしばくぞッ!!」
「やってみなさいよ!イーッだッ!」
ポルナレフと女の子の掛け合いを見ていると、
「・・・・ナマエさん、これ着てください。」
ちょっと照れた顔の花京院くんが上着を脱いで私に差し出してくれた
「ありがとう!お言葉に甘えるね」
ナマエはお礼を言って上着に袖を通した。実際着てみるとサイズが大きくてブカブカだ。高校生とはいえ体格の違いを思い知らされる。
「Oh・・・なんかええのぅ、そのかんじ」
ジョセフさんがこちらを見てなんやら呟いていたがあえてスルーしといた。
まさかここ3日でたて続けて海に漂流するとは・・・乗り物恐怖症になりそうだなとナマエは苦笑しながら、一行は次の目的地、シンガポールへとたどり着いたのだった。
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