ホテルのお風呂に入って気分爽快な心持ちで髪を乾かしていると、コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえた。


ドライヤーを止めてガチャ、と扉を開くとそこには女の子が笑顔で立っていた。


Amour Amour Amour



それから私の部屋でしばらく女の子とたわいもないお喋りをしていた。女の子は私のベッドに肘をついて寝転んでいる。私はというと、お風呂上がりの冷えたオレンジジュースの缶を片手に近くの椅子に腰かけていた。

話しているうちにどういう流れかは忘れてしまったけども話題は恋バナになった。
私の初恋の話だとか失恋エピソードだとかを根掘り葉掘り聞かれるというこっ恥ずかしいガールズトークを繰り広げていた。

「ナマエさんは今好きな人とかいないのー?」

「好きな人かぁ・・・うーん、今は居ないなぁ」

クシで髪をとかしつつ返事をする。

「なんでー?一応男5人と行動してるワケだしさーっ、もうちょっと色恋の話とかあってもいいんじゃないのー?」

ナマエは苦笑いをした。傍から見れば男5人と女一人。何かあってもおかしくないというふうに見られるのだろうか?実際は恋愛とはかけ離れた因縁の相手を倒しに行く過酷な旅のメンバーなのだけど。


「そっちはどうなの?誰か好きな人いるんじゃあないのー?」


ニヤニヤしながら女の子にそう聞き返した。すると思いのほか本当に好きな人がいるらしく、一気に顔に熱が集中する女の子の姿を見た。


「おぉぉ・・!もしやあの5人の中の誰か?承太郎くん?それとも花京院くん?」


ナマエはそう言って2人の名前を挙げた。
何故この2人なのかというと、ジョセフさんとアブドゥルさんは年齢が上すぎる気がするし、ポルナレフはポルナレフだし・・年齢的に考えても高校生の承太郎くんと花京院くんあたりかと思ったからだ。


女の子は更に顔を赤くして顔を手で隠してしまった。カ、カワイイ!恋する乙女の雰囲気を全身から感じる!


ナマエは微笑ましいなあとニコニコしながら女の子を見つめていた。




そこでナマエはぽん!と手を叩き何か思いついたような顔をした。

そして満面の笑みで女の子に向かってとある提案をしたのだった。





----------------






コンコン




承太郎と花京院が部屋で雑談をしつつ明日の予定について話していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。花京院は「僕が出るよ」と言い腰かけていたベッドから立ち上がった。今日ポルナレフがホテルに到着した途端刺客に襲われた事件もあって、十分用心してドアに近づく。


「誰です?」


「あっ、花京院くんー?ナマエです〜、今ちょっと大丈夫かなー?」


ドアの向こう側からナマエの声が聞こえてきた。


「ナマエさん?どうしたんですか?」

花京院は扉を開けた。


ドアを開けると笑顔のナマエと、その後ろからうつむき加減にこっちを見ている女の子の姿があった。ナマエは顔の横でおなじみの娯楽アイテムを持ってこう言った。




「ねぇっ、みんなでトランプやろっ!」






それからトランプ大会が始まった。ちなみにトランプはジョセフさんから借りてきた(ジョセフさんたちも誘ったが今後の予定について話し合うらしいので今回はパスと言われた)。トランプは人数が多くいた方が楽しいのでポルナレフも誘ったところ、「お前ら暇だな〜」と言いながらも承太郎くんたちの部屋にやってきた。


承太郎くんも「やれやれだぜ」といいながらもトランプの輪に参加してくれている。良かった。おそらく女の子は承太郎くんのことが好きなんじゃないかなーと感じたので、彼が乗ってきてくれないことには始まらないのだ。女の子はさりげなく承太郎くんの隣をキープしている。ナマエはふふふと内心笑いながらカードをシャッフルする。



トランプは思いのほか盛り上がった。しかし恐るべきは高校生2人が異様にトランプが強いことだった。大富豪にしても七並べにしても、みるみる手持ちの札が無くなって先に上がってしまう。女の子にも容赦ないカードさばき恐るべしだ。くっ、しかし私はこんなことではめげないぞぅ。大学の新入生歓迎会やコンパで数々の盛り上げ役をやってきた私にできぬことなど・・・!


そこでナマエは罰ゲームを提案した。一番先に上がったものがドベの相手に命令できるというものだ。王様ゲームの図式にあえて似せてみた。そしてゲームもダウトや神経衰弱のような頭脳を使うものではなくじじ抜きやブタのしっぽなどフェアな条件でやれるものを提案した。(じゃないと承太郎君と花京院くんが勝ちっぱなしになってしまうので)


そんなトランプ大会はますます白熱していった。みんな必死に負けを回避するためより一層真剣にゲームにのめりこんだ。罰ゲームは動物のモノマネや恥ずかしい話披露や一発ギャグ、十八番の歌をうたうなど多種多様なものが提案された。


ポルナレフの動物のモノマネや花京院くんが一発ギャグをやったところなど、腹筋が痛くなるほど皆大爆笑であった。かくいう私も十八番の歌をみんなの前で歌わされたけれど。
ふと女の子の方を見ると、楽しげに笑いながらさりげなく承太郎くんにくっついている様子で、良かった良かったとナマエは胸を撫で下ろした。


そしてゲームを始めて何回目かはもう忘れたが、ポルナレフが一番に勝った時、こんな提案をした。


「じゃあよぉ〜!ドベになった奴はその右隣のやつに10秒間抱きつく!」


うわ〜きたよ酔ったコンパのノリ(笑)と内心ナマエは思った。しかしこれでもし女の子が最下位になったら右隣は承太郎くんだ。これはチャンス!と思いナマエはさっさと上がってしまおうと思った。しかしなかなか上がれない。次に承太郎くんが上がり、次は女の子・・・と続々上がっていく中で嫌な予感がしたが最下位は免れるだろうとナマエはじじ抜きを続けた。



だが。



「う、うそ〜〜〜っ!」



ナマエはそう言って手に持ったカードを床にはらりと落とした。最下位はナマエだった。なんとなく最下位にはならないだろうとタカをくくっていた自分を殴りたい。しかも私の右隣はポルナレフだ。墓穴を掘ってしまった。



「ゴホンッ・・ではナマエ、準備はいいな?」

ポルナレフは若干ニヤニヤを隠せない様子で言った。


「ナマエさん、拒否していいですよこの罰ゲームに限っては。むしろ拒否して下さい。」

花京院くんは言った。


「花京院の言う通りだぜ。」
承太郎くんは少し眉をしかめてポルナレフを見た。



「なッなんでだよ〜〜!俺が一番に上がったじゃねぇかっ。お前ら俺が羨ましいからって卑怯だぞ!」


ポルナレフはそんなことを言ってわめいていた。なんだか場が混沌としてきた。



「や、やるよっ!」

ナマエは大きな声で言った。皆がナマエの顔を見る。


「10秒間抱き着けばいいんでしょ?罰ゲームを提案したのは私だし・・・それぐらいの罰ゲームやってみせますとも!!」


女の子がおぉ〜!と感心したようすで声を出した。



そしてナマエはぐるっとポルナレフの方を向くとおそるおそる彼の背中に手を回しハグをするような姿勢で抱きしめた。
ヤ、ヤバイ死ぬほど恥ずかしい・・・そして10秒がものすごく長く感じる・・!ポルナレフのゴツゴツとした身体の感触が布越しに伝わってくる。
挨拶でハグをするような愛の国出身のポルナレフにとってはこんなもの恥ずかしくもなんともないのかもしれないけど、純ジャパニーズの私にとっては異性をぎゅっと抱きしめるなんてことは普段絶対ないのだ。

ナマエは自分がやっておきながら恥ずかしさで目をギュッとつぶりつつ10秒経過を待った。


「・・・さん、にー、いち、ぜろ!!終わったー!!ね、これでいいでしょ?!」


長い10秒が終わってポルナレフからバッと離れる。顔を赤くしながらおそるおそるポルナレフを見上げる。私のあからさま慣れていないぎこちない抱擁を馬鹿にされるだろうか?しかしポルナレフの顔を見ると、頬を少し紅潮させ押し黙っていた。


ポルナレフはふらっと立ち上がると何故か前傾姿勢でドアに向かって歩みを進めた。


「す、すまん!悪ぃーがおれは、先に部屋にもどるぜッじゃーな!」

そう言ってポルナレフはすたこら部屋を出て行ってしまった。突然どうしたというのだろう。頭の中にハテナをいっぱい浮かべてみんなの方を見る。女の子も訳が分からないという表情をしている。

「えぇえ・・・私ポルナレフを怒らせちゃった?」

言われた通り恥をしのんで精一杯罰ゲームを遂行したつもりなのだが。


承太郎くんと花京院くんは眉間に皺を寄せたような、呆れたようななんともいえない表情を浮かべていた。


「やれやれ・・まったくあいつは・・・」

と承太郎君が帽子を下にさげながら言った。


「ああ、ポルナレフは怒ってないですよ。どうしようもなくアホでバカなだけですから。ナマエさんに全く非はありません。」

花京院くんは笑顔で私に向かってそう言った。しかし笑顔に凄みというか恐ろしさの片りんを感じるのは何故だろう。

「ほ、ほんと・・。ならいいんだけど。」



結局もうずいぶん夜も遅くなってきたこともあり、トランプ大会はそこでお開きとなった。
私と女の子は花京院くんたちにお休みの挨拶をして、散々長居した部屋を後にした。


女の子とも別れ、一人自分の部屋に戻るとベッドに直行した。明日はインドへ向かうので早く寝なければ。そう思いつつも、さっき突然ようすが変になったポルナレフのことが気がかりで仕方なかったナマエであった。


back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -