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「億泰くん・・・スタンドって・・・なに?」
とある物語なんと新事実。
私が今まで”アレ”と表現していたものは、『スタンド』というものらしかった。
22年間生きてきて初めて知った新事実だった。
「んでよォ〜〜〜っ、ナマエさん。コレがスタンドでコイツはスタンド使いにしか見えねェーってのはわかったッスか?」
そう言いながら億泰くんは自身のスタンドを見せてくれた。億泰くんのスタンドは「ザ・ハンド」というらしく、青と白のかっこいい人型スタンドであった。
「うわぁ〜…かっこいい〜!ね、億泰くん。スタンド触ってもいい?」
「へ?そりゃいいっスけど…」
なにせ私は他人のスタンドを見るのも触るのも今日が初めてである。年下の億泰くんに呆れられたくないのでみっともなくはしゃいだりはしないけれど興奮は抑えきれない。
ザ・ハンドの腕や肩にペタペタ触る。
「あの…ナマエサンよォ…くすぐったいんだけど…」
億泰は心なしか顔を赤くして俯いてつぶやいた。そうだ、スタンドに触れば本人にも感触が伝わることを忘れていた。
「ごめんねっ…つい嬉しくて…」
パッとザ・ハンドからナマエは手を離した。
それにしても億泰くんは良い子だ。見た目や服装は不良そのもので人を寄り付かせないオーラをびんびんにかもしだしてはいるが、本当は性根の優しい男の子なのだと今までの短い時間の中でさえわかる。スタンドについて素直に教えてくれたし、何より本人の性格が天然というか抜けているところが可愛らしい。なにか庇護欲をかきたてると言えばいいのか。
「これが母性本能…なのかな。」
「ん?どしたんスか?」
「いや、こっちの話。ところで億泰くんのスタンドはどういう能力なの?」
「能力っスか?そうっスね〜…」
そう言ってザ・ハンドの右手が空を切った。するとその先に置いてあったティッシュケースが億泰くんの手元にビュンっと飛んできた。
「え??!ちょっと待って、今の何?!ティ、ティッシュが瞬間移動したよ!」
目を白黒させて驚くナマエを見て得意げにフフンとなりながら億泰は言った。
「俺のザ・ハンドは右手でなんでも削り取ることができるんスよおォ〜〜!今のは空間を削り取ったんス。だからティッシュが飛んできたっつぅ〜わけっスよ。」
どうっスかぁ〜オレのスタンド…という億泰の手をがしっと掴んでナマエは言った。
「スゴイ!!!億泰くん天才!!感動した!!こんな能力があるなんて!!」
らんらんと目を輝かせて感動で涙目にさえなっているナマエを見てポカーンとした億泰は、一拍置いて破顔した。
「そっ、そうっすかァァ〜〜?照れるぜえェ〜〜っ!」
にへらにへらと笑いながら億泰はもじもじする。自分のスタンドをこんなに素直に褒めてくれる人は兄を除いて今まで居なかった。すごいすごいと褒められてすっかり気を良くしてしまうこの単純さは、虹村億泰の良いところでもあり悪いところでもあった。
「まぁ、俺ァ〜スタンドに関してはナマエさんよりは詳しいからよォ、何かわからないことがあったらおれに何でもきいてくれよ!」
そういって先輩風を吹かせる億泰に対してナマエは満面の笑みで「ありがとうっ!」と答えた。
ナマエはなんてラッキーなんだろうと感じた。億泰くんのおかげで今日だけで色々なことがわかった。もし億泰くんに会えていなかったら延々にひとり悩み続けることになっていただろう。
今日は怖い人に絡まれたりコンビニ強盗を目撃したり色々災難であったけれど、こうして億泰くんに出会えたからすべて災難も帳消しになったような気がした。
神様ありがとう、ナマエは都合よくそんなことを思ったりした。
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