「いやー・・ビックリした、ビックリしたなァ・・・」



帰宅し自分以外誰もいないアパートの一室でナマエは噛みしめるように言った。
今日の午後の珍事のおかげで、会社に戻ってからも上の空で困った。


私は物心ついたときから”アレ”を持っていたが、あの少年もそうなんだろうか?
この街には他にも彼のような人がいるのだろか?というか知らないだけで実際はたくさんいるんだろうか?

色々考えてぐるぐると悩む。

「んーーーっ・・・・こればっかりは悩んでもしょうがない、かぁ」


こんなに悩むんならあの少年に話しかければよかったのに。
そうは思ったけれども、あの少年はあのあとすぐどこかへ消えてしまったし、そもそもどうやって話しかけていいのかわからなかった。そして彼を見失った今、悩んでも解決する問いではなかった。


その時お腹の虫が鳴った。


あ、そういえば夕飯まだだっけ、と思い冷蔵庫を漁る。しかしその中身は寂しく、今夜の夕食を作れるほどの食材は存在していなかった。
ため息をついて立ち上がり、スーツを脱いで普段着にちゃっちゃと着替えて財布と鍵だけ持って外に出た。スーパーに行きたいところだが生憎今日は疲れていてそこまで行く気力もないので最寄のコンビニに行くとする。

今の時刻は20時過ぎ。歩く人も少々まばらだった。
コンビニにつくと、駐車場で高校生の不良の男の子が一人アイスを食べていた。見た目は怖いし制服はなんかカスタマイズしてるわで近寄りがたい雰囲気を醸し出してはいたが、タバコじゃなくて棒アイスを食べているあたりが可愛らしいと思った。
そういえばあの制服・・・午後に見たあの男の子と同じ制服・・・?

そう考えながら明るいコンビニの店内に入っていった。


店内をぐるっと一周し、適当に買い出しを終えて入り口へと向かう。


さっきの男の子はまだいるかなー・・・もしまだ居たらリーゼントの少年のこと、聞いてみようかな・・・。同じ不良系のくくりにはカテゴライズされるし、もしかしたら友達かも・・・


そんなことを考えながらぼんやり歩いていたのがいけなかった。ちょうどお店の入り口を出たところで思い切り誰かとぶつかってしまった。


「ってェーな!コラ」

「あっ!ご、ごめんなさい!!」


どうやら運悪く怖い系の人と衝突してしまったらしい。一昔前のチンピラのような派手な柄シャツを着た男性が目の前にいた。
おそるおそる顔を上げるとサングラスをかけたイカツい顔がそこに。


「すみません・・前をよく見ていなくて・・・大丈夫ですか?」


「あーーーん?大丈夫かってぇー?こりゃあ骨折れちまったかもなァー」


「大丈夫っすかぁーーー兄貴ィッ!!?」


柄シャツ男には連れがいたようで、取り巻きのように背後には背の低い男がいて、わざとらしくそう声をあげた。
ナマエは心の中で、こんな古いタイプのチンピラ達もいるもんだなぁとゲンナリしつつとりあえず謝っておこうと決めた。

「本当にすみませんでした。私の不注意でした。」

そう言ってペコリと頭を下げた。その時柄シャツ男がナマエの腕を掴んだ。


「んんー?お姉さんさァ〜・・・カワイイ顔してんじゃぁねェか。どう?許してやるからこれから俺たちと遊ぼうぜぇ〜」

ゲヒャヒャと下品な声で何が面白いのか柄シャツ男と取り巻きの男は笑い始めた。


「えっ・・それは無理です・・。あの、腕離していただけませんか?」

「つれないこと言わないでよォォ〜〜〜〜っっ!向こうに車止めてあるからさっ俺たちとドライブしようぜ、ドライブぅ〜!」

ああ・・・ほんとに嫌だこういう人たち・・・
ナマエは内心頭を抱えつつ、どうしたらいいか目まぐるしく考えていた。



「オイ」


その時大きな影がぬっと現れた。
前を向くと、柄シャツ男の後ろに先ほど店の前にいた不良の男の子が立っていた。


「なんだお前ぇ?」

「いい加減にしろよォ〜〜、この人嫌がってんだろぉ〜〜?」


ど、どうやらこの不良の男の子は助けにきてくれたらしい。でも大人の男2人に対して男子高校生の彼一人では分が悪い。

「でめぇにゃ関係ねーだろ糞ガキっ!」

「良い大人がみっともねェまねすんじゃねぇって言ってんだよこのダボがァツ!!」

「なんだとっ?!!!」


あああ 一触即発の空気である。今にも殴り合いが始まりそうだ。
どうしようこんな場面に出くわしたことがないからどう動けば場が治まるのか皆目見当もつかない。

あわあわしていると、不良少年の背後からスウッと人型の像が表れた。
これは・・・・


「あ・・・まさ、か」


この少年も”アレ”を持っているの?!


驚きに目を見張りながらその青と白の像を見ていると、その目線に気付いたらしい少年の方が今度は逆に目を見張って驚いた。


「なっアンタぁ・・・もしかしてコレが見え・・・」


そう言いかけたところで少年は地面に吹っ飛んだ。
柄シャツ男がプッツンして、少年の顔をぶん殴ったのだった。


「きゃーーー!!!」

思わず大きな声で叫んでしまった。まさか本当に殴るなんて!
ナマエは急いで少年の元へ駆け寄った。

「あ、兄貴やべぇ!ポリ公が向こうにいるぜ!」

「何ィ〜〜?!・・チッ、命拾いしたな小僧、それぐらいで許してやるぜ」

そう言ってチンピラ二人は車に乗ってあっという間に逃げてしまった。



私は逃げて行ったチンピラ達の車のナンバーだけ確認した後、殴り飛ばされた少年の顔を見た。

どうやら打ち所が悪かったらしく完璧にのびている。


どうしよう・・・


ナマエは泣きそうな表情で自分を助けてくれた少年をじっと見つめた。


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