寝るには遅く、オヤスミには早い



 歳末セールで買ったこたつが大活躍だ。こたつにテレビのリモコン、お茶にミカン。日本の冬、って気がする。

「レーン、寝るならベッド行け」
「うう……寝て、ない、です」

 タカが頭をぺしぺし叩いてくるのがキモチイイ。年明けはとっくに終わって、お風呂も入って、後はだらだら歌の特番とお笑い番組をとっかえひっかえして観ながら、何となく時間を過ごしてる。埼玉には明日、うんと、今日、起きたら帰って、おせち食べて、初詣して、ちょっとだけ過ごす。その後群馬にも行くけど、学校がすぐに始まるから、あんまり長くいられない。……今年は、何だか特別。
 もう去年、なんだ。夏に、タカの部屋で一緒に暮らし始めた。それまで何回か泊まりに来たことはあったけど、やっぱり最初は慣れなくて、恥ずかしくて、でも一緒にいられるのが嬉しくて、ふわふわしてた。毎日タカの顔が見られる。一緒にご飯を食べて、一緒に眠る。当たり前が当たり前になるのがもったいなくて、毎日違うことしようって思ってた。でも、それが普通ならめちゃくちゃシアワセじゃねェか、ってタカが笑ったら、ふっと肩の荷がおりた気がした。

「おいレン、いー加減起きろ、……あー、もう寝てんなら寝てろ」

 しびれをきらしたタカが、ずるずるオレのからだをこたつから引きずりだす。電車に乗ってる時みたいに、がたがた揺れるのも、何だか気持ちいい。特に抵抗もしないままでいたら、思いっきりベッドにほっぽり投げられる。
 バタバタって足音が聞こえて、閉じたまぶたでも周りが暗くなったのが分かる。ふ、と目を開けると、暗闇でもわかる、タカヤの顔。

「……寝るってなったら目開けるとか、いい根性してんなァ」
「んー? ふふ、」

 タカが掛け布団をぶわってかけるのを体に巻き取って遊んでたら、「コンニャロ」って布団ごと思いっきりぎゅうってされた。いたい、文句を言っても全然離してくれない、し、……離してほしく、ない。目が合って、顔が近づいてきたから思わず布団でガードしたら、「ぶ、」って潰れたみたいな声が聞こえた。

「ふは、タカ、変な声」
「おっまえ、まじで、」
「ひゃあっ」

 布団をひっぺがされて、もう一度目と目が合う。もうさっきまでの雰囲気はなくなってて、タカの目が、まっすぐオレを見る。……おかしいな、さっきまで、全然、平気だったのに。何か言おうとしても、何にも思いつかない。
 真っ黒な目に、オレが、オレだけが、うつってる。それだけで、ぶわわって、ほっぺまで熱くなった。逃げようとしたら手のひらも汗かいてて、うまく動けない。どうにか転がってみたけど、後ろからまたぎゅうってされて、もう、逃げられ、ない。

「あ、あの、オレ、も、寝る、寝ます、」
「それでハイオヤスミ、ってなると思うか? この状況で?」
「……ならない、と、思う、」

 正解。
 いつもよりすこしだけ低い声がして、首筋に熱、と、湿った感触。「う、」背中がぞわってした。つま先まで固まったみたいに動けない。そのまま耳のうしろに、熱がうつる。赤いの、自分でもわかる。さっきまで抱きしめてくれてたはずの手が、簡単にスウェットの中に入ってきた。手が熱くて、触られたところ、全部跡になるみたいだ。対抗しようとしたら、オレの両手は簡単にタカヤの片手で押さえられる。ずるい。
 この一年、タカばっかり大きくなった。手もからだも、全部。もう、とっくに高校生じゃない、オトナみたいな、手。オレはいっぱい食べても、全然筋肉がつかないのに。投手の腕だよ、って言おうとしたら、タカヤの手に反応したからだがきゅうってなって、不意に声が出ちゃって、慌てて口を抑える。

「……イイ声、」

 勝ち誇ったような声が聞こえた。さっきのお返しみたいで、悔しい。悔しいから、意地でも、そっち向いてやらない、ぞ。
 そう思った瞬間、からだがぐるんと回される。ほっぺが触れて、オレもタカも熱くて、それが気持ちよくて、悔しいなんて気持ちは、あっという間にどっかに行ってしまう。どっちでもなく手を絡めて、お祈りみたいな形にして、ぎゅっと握る。考えなきゃいけないことはいっぱいあるけど、あるんだけど、今は、もういい。タカが、いるから。
 首を伸ばして、今年はじめてのキスをする。タカは一瞬びっくりした顔をして、それから、嬉しそうにくしゃって笑う。もうすっかり覚えたタカの重みを、ゆっくり受け入れる。
 ……オトナなのにコドモみたい、そう思ったけど、言わないことにした。





20170101/年賀状企画2017
20200815/修正



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