ワガママ



※1巻軸のマイキー

 ただ、従順でどうしようもなくて途轍もなくかわいそうでかわいい。他に特徴はない。
 コイツはオレの名前を頑なに呼ばない。
 あごを掴んでこちらを向かせるとたどたどしく「わたしの名前、わかる?」と発した。名前がなくても困らないから覚えていない。そもそも知らないのかもしれない。組織の誰かが引っ張ってきた女で、彼女自身でオレの側を選んだのだった。不相応な嘆願として跳ね除けられそうになったのをなぜか拾ってやる気になった。
 いざ囲うとなったらそれなりに面倒で若干後悔が滲んだ。後悔はため息ひとつに集約して、とりあえず持っているアパートの一室を割り当てた。前の住人が帰ってきていない部屋だった。そんなことは知らない女はそこで今もひと時の平穏を得ている。きっと心中今にでも逃げてしまいたいと思っている。過去の曲がり角を馬鹿な判断だったと思い知ったあとで、もう逃げ場が無いことを知り、抱かれれば甘い言葉を吐いた。その瞳にはオレしか映っていない。この部屋は何もかもが異常で、この女がおかしくなるのは時間の問題だった。女はそれなりに衰弱している。505室は時計の針の進み方も狂っていた。時間の進み方云々はこの女が言い出した。
「わたし、貴方のこと嫌いじゃないよ。怖いけど、好きだよ」
 ひとりで何かぶつぶつ呟いていたから彼女の首元に手を置いて、頸動脈の位置をたしかめたのだった。
 この女は死ねと命令されれば死ぬんだろう。元々が社会の輪からあぶれた存在だ。命を弄ばれても平気そうに目の端に涙をためてなよなよとした笑みを浮かべている。世の中が必要としている主体性が無い。
 誰に踏みにじられても気にしない花だった。

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