オペレーション文化祭



※夢主も三ツ谷も高校生で同じ学校に通う

 演劇部の王子様といえばみょうじなまえのことだとこの学校の人間はすぐわかる。なまえは170センチ越えの身長と中性的な顔立ち、ショートカットの彼女がまとう凛とした雰囲気、舞台でのイメージを崩さない普段の振る舞いから、乙女心をわかってくれてそこらの男子よりかっこいいと女子にめちゃくちゃに人気だった。制服は校則を無視してズボンを履いて、先生に目をつけられているが、彼女が注意されるたびに周りのファンが庇い、今まで特に問題もなく学校生活を過ごしている。何より本人に改善の気が全く無いため学校の大人は手を焼いている。
 何人かの先生方にいわせると、なまえはその幼馴染の三ツ谷隆とともに問題児だった。元とはいえ未だに髪を染めている不良のほうが問題として大きいだけで、なまえがやっていることも不平等が生まれるとして何度も職員会議に取り上げられていた。
 ことが起こったのは文化祭である。部活で忙しいからクラスの出し物は私抜きで話を進めてシフトは適当なところに入れておいてと頼んだなまえを、クラスメイトが放っておくはずもなかった。決定事項をまとめたリストのトップにはでかでかと「男装・女装カフェ」と書かれ、何より問題だったのはなまえが女装する側に回されていたことだった。クラスメイトに任せきりにした自分もわるい。そう思って、帰宅後に久々にクローゼットから唯一持っているスカートである制服を引っ張り出してきて姿見の前で合わせてみた。違和感しかない。1年前は毎日履いていたはずなのに時の流れははやい。
 指示にとにかくフェミニンな格好をしてほしいとあり、服に持ち合わせが無かったら貸しだすとまである。借りると洗濯やお礼が面倒だし、まずサイズが合いそうにない。
 時間的に大丈夫だったから相手を呼び出す。文化祭の準備を今日は早めに切り上げると言っていたのを覚えている。

***

「姉のクローゼットからワンピースとカーディガン、ヒール、バッグと拝借してきた。新しい役柄に挑戦しようと思ってるんだ。イケると思うか?」
 ドリンクバーを奢るだけで話をきいてくれるのだからありがたい。夕方になり家族連れが増えてきたファミレスで、目の前の彼はジュースを飲みながら無駄なあがきはやめろの目で見てくる。
「文化祭の衣装だよね。こっちにも話が回ってきてんぞ」
「そっちの組関係なくない?」
「無い。『みょうじさん』が服の相談に来たら迷いなくseventeenかnon-noを勧めるか、幼馴染のよしみで原宿に連れてけって言われてる」
「嫌だそんなの」
「なまえがカッコつけてないとこが見たいんじゃねぇの。素が気になるとか普段と違う感じが見たいとか」
「これが素なんだ」
「そういうことにしとく」
「なまえのあしらいには慣れていますみたいなツラまじムカつく」
「どんだけ付き合い長いと思ってんだよ」
「じゃ私がこれから何言おうとしてるかわかる?」
「適当に服を見繕ってくれ……?」
「そうです、よろしくお願いします。お年玉は降ろしてきました……今からお時間ありますか?」
「なんで敬語?」
「届け出を出さないで単発のバイトしてるのガッコにバラすぞ」
 冗談だとわかっているから、彼は目を細めてはにかむ。
「いや落差よ」
 炭酸の器を空にして、彼が席を立った。私も慌てて伝票を掴んでその後を追う。視界が慣れない。
「今回のトータルコーデにヒールはなし、な」
「なんで」
「目線合わねぇから」
 それだけ。彼はまた笑った。
 それだけの理由らしい。ひとつは文化祭用。もうひとつは普段用。私は紙袋をふたつ抱えて帰ることになるのだった。

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