過ぎたこと



 納戸の一番高い棚の奥に赤いギフトボックスがあって、逡巡した。いつ気づくと思ったのだろう。
 置いた本人ですら忘れていたのかもしれない。
 包装紙の盛り上がったところに爪を立てて箱を開けるとガラにもないシンプルな細いチェーンネックレスが入っていた。
 思い当たる節を探せば、ないでもない。
 送って女が喜ぶものを教えてくれと言われたとき、私に聞いたんじゃプレゼントにならないんじゃないのと我が物顔に返してしまって大層恥ずかしかった。
「硝子にだよ。誕生日に物あげる仲じゃないんだけど、僕らのアラサー記念に」
「そうなの」
 腑抜けた返事をしたことを覚えている。高専時代からなにかのきっかけで付き合ってそのままずるずるとひきずってきた関係だった。糸車の針で刺したような痛みがして、まだそんな感情がのこっていたのかと意外だった。
 硝子だったら、とジュエリーショップのホームページを見て相手の話に合わせた。そんな感じだった気がする。途中で話が逸れて、サイトトップに載っていた大ぶりの宝石が嵌まった華美な指輪を指差して、オマエはこういうの似合わないだろうなとからかわれたっけ。私それになんて返したんだっけ。
 精神のなんやかんやで呪術師をやめてしまった私は、もう彼について、先生になったとか、噂にきくだけになった。負担がえぐいってきいたあの目はまだ現役なのかな。あれは空を閉じ込めた色をしていた。彼は今も相変わらず人間離れした美しさみたいなもので、呪霊を殺めているんだろう。初めてのセックスは部屋の電気を消してもらった。でも色素の薄い彼は全部見えていたらしい。色んな「好き」がわかるようになって、当時の気持ちが曖昧になったけれど私は間違いなく恋人として好きだった。
 区切りがついたはずのことを掘り返されてまいった。ネックレスを箱にしまって、可燃のほうに投げ入れた。

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