ワン・ナイト・スタンド



※デザイナーになる前、学生の三ツ谷
※恋愛経験少なめの大学生夢主

 昨日はガラになく飲みすぎてしまったんだと思う。目が覚めたら自分の部屋ではなかった。現実逃避をしてもう一度目をつむったところで、閉じた目をこじあけるような事実、誰かしらのぬくもりが側にある気がしたのである。そして肌に直に布があたっている。わたしは一糸も纏っていなかった。
 『誰か』を起こさないようにそろっとベッドから出る。落ちていた服を拾ってひとつずつ身につけていく。頭がまっ白だ。誰なのかは服を全て着てからにしよう。バッグの中身を確認して、はっと気づいたようにスマホを取り出した。
 午前3時16分。検索ボックスに打ち込んだのは、『ホテル代 割り勘 全額 どっち』。そもそもチェックインのときに払ったのかな。覚えてない。検索結果をスクロールして、これを判断するには相手の顔を見るべきなのだと思い至る。とにかく初めてのことで、自分がお酒に弱いのは十分知っているつもりだったし、付き合ってもいないふたりが、こういった一夜を過ごすのを是としない倫理観を持ち合わせているはずだった。相手の服を埃を払いつつ拾って、畳んでベッドサイドに置いた。枕元にあったマルジェラのナンバーリングはその隣に。肩ほどまでのツートンカラーの髪、タレ目をふちどる長い睫毛、均整のとれた顔立ち。……やってしまった。彼とは友達からの紹介で会った。何度か、片手に収まるくらいの回数だけご飯を食べに行った仲だ。もしかして自然の運びといって差し支えないのだろうか?
 ――昨日の夜は飲みすぎたのだ。たしかにそこにわたしの好意はあったんだけど、もし、わたしから誘ったのだったらどうしよう、服が散らばるように落ちていたのはもしかして、酔った勢いでそのままベッドに縺れ込んでしまったから? 度を失いそうになる。
 理性は自分の軽率さが信じられなくて頭の片隅でぜえぜえ息をしている。どうすればいいんだろう。ちょうどよくメモなんて持っていなくて手帳の後ろのほうのページを綴じ糸のところを押さえて静かに破って、ペンを走らせる。バッグに仕舞おうとして、手帳から片割れのページが抜け落ちた。
 財布から1枚お札を取り出して書き置きと一緒に彼の服の上に残して、わたしは部屋を出る決心をする。
「帰んの」
 いつのまにか彼は目を覚ましていた。上半身を起こした彼は、気怠げに、簡潔なひとことで彼はわたしを引きとめた。なまえ、と名前を呼ばれて振り返ったところでやんわり腕を掴まれる。目はわたしを見据えている。
 薄闇が占拠した部屋のなかで、帰ると口にしたわたしの声はぐっと身体を引き寄せられて、ふわりとキスに溶け入った。……今日講義あるんだけど。午後からだし間に合うかな。

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