願いをこめて



※捏造しかない。スクール時代のアーティさんと幼馴染主

 わたしの知るかぎり、彼は近所の丘かその近くの森に行ってむしポケモンと戯れているのが特別好きだったことはなかった。もともとなんでもそつなくこなす性質たちだったが、むしポケモンに魅入られたようになってから宿題や持ち物を忘れることが増えた。今日は、スクールの終業のチャイムが鳴ると、自分だけさっと荷物を鞄に詰めてしまって、一緒に帰る約束をしていた幼馴染みまで置いていったのだから慌てて教室を出た。自分の誕生日パーティのことまで忘れて、るんるんと森へ足を運んでしまうからそのあとを追いかけるだけで私は体力を使った。日も暮れだした頃、パーティの主役は服やスニーカーに湿った土をつけたまま、予定より十数分遅れて帰宅した。彼が着替えている間にわたしはバックパックに忍ばせていた、アールナインのシールが貼られたプレゼントをそっとプレゼント置き場のはじっこに載せた。彼には敵わないけどメッセージカードのデコレーションを手描きした。会場であるリビングの隅にバースデーピニャータのシママがいた。かわいい。
 バースデーソングをききながら彼はケーキのロウソクの火を吹き消して、両親からぴかぴかのモンスターボールをもらったのだった。横顔を見て何をおねがいしたのかなんとなく……わかった。
 キッチンで四角いケーキがきりわけられはじめた。みんなおばさんのところに並んで、目当てのケーキを受け取ったら、その隣のダイニングで飲み物の中から、各自自分の名前の書かれたコップに好きなジュースを注いだ。ミックスオレと迷ったけど、もの珍しさと好奇心にまけてテーブルの奥のほうにあったマゴのみのジュースを手に取った。友達の何人かと用意された席に座って、アーティがどんなポケモンをバディにするのか、はたまた自分がつかまえるならどれだ、なにタイプだと好き勝手に盛り上がっていた。わたしたちのなかにはポケモンをもう持っている子がひとりだけいて、明後日くらいにはアーティはそっちのグループにいるのだ。初めてポケモンを持つのは幼馴染みが先だった。
 しばらくすると親戚たちからすでに身一杯の祝福を受けてきたアーティがケーキの皿を片手にやって来た。くちぐちにお祝いのことばをかける。
「はじめてのポケモンはどんな子にするの?」
 仲良しメンツの一人がずっとききたかったというふうな素振りで話を振った。みんな、自分のことのようにテンションが上がっている。アーティは近くから椅子を引っ張ってきて、わたしたちのテーブルについた。
「それだけど、ヤグルマの森でつかまえてこようとおもうんだぁ」
「それで、それで!?」
「あとはつかまえてからのお楽しみだよ」
 えーっと興奮気味な声があがる。会話に口を挟みつつ、ジュースを飲んでカラフルなケーキを頬張って、わたしも映画にあるような「運命」について考える。『「運命の出会い」がありますように』。夢ってたくさんあるから、そのどれを選んだかなんてヒミツを探ったみたいで気まずかった。もやもやとふわふわが混ざった感じがする。
「ぼくはモノズがいい! なまえは?」
 急に話の矛先がわたしに向いた。
「わたしは……シママかなぁ。そのときにならないとわかんない」
「いいね、なまえっぽい」
 そう言いながら、アーティが手首をくるっとまわしてフォークをこちらに向けた。
「なにそれ」
「なんでかはわからないけど、ぽいなって」
「わたしはアーティはむしタイプっぽいと思うよ」
 それを聞いて彼は目を輝かせた。そんなにか。他の子はくさっぽいとかじめんっぽいとか、いややっぱりむしだなんてちょっとした議論になっている。でも、大人からビンゴをやるとアナウンスがあったらすぐにそちらに意識が切り替わった。いつの間にか部屋の中央のテーブルには老人会で使うような抽選機があった。取っ手を回すと数字がかかれたボールがでてくるあれだ。他愛のない会話を続けていると、おばさんがわたしたちにビンゴカードをくれた。
「ねぇなまえ、あなたちょっと顔が赤くない?」
 自分のものではない手のひらが額に置かれた。
「うーん。熱いよ? 熱があるんじゃない?」
「ないよー! 別になんともないし。平気」
 アーティが手を離すと、はっと気づいたようにわたしのコップを顔に近づけた。
「これ。ジュースじゃない」
「マゴのみのジュースだよ!」
 おばさんがアーティからコップをもらって、中身を確認した。なぜだかあたふたしているみたい。
「あらほんと。ジュースと間違えたのね。ごめんなさい。飲み物を一緒くたに置くんじゃなかったわ。私のせいね。とりあえずみずを持ってくるからそこで待ってて」
 おばさんは早口でそう言い切ると、おいしいみずをコップに注いでくれた。それを飲んでいるとあたまが少しすっきりしてきた。なんでだろう。風邪……ひいてるのかな。
 ビンゴがはじまるかいなかというところで、お父さんが迎えにきた。「なんで?」と固まるわたしをよそにおばさんがかくかくしかじかでと説明していた。わたしはお父さんが持ってきたお気に入りの黄色いコートを着せられる。どう考えても「帰りの準備」だ。
「さあみんなにあいさつして」
 バイバイ、月曜に学校で。そんなあいさつで一足先にお別れになった。風邪が週末で治るといいな。アーティが玄関まで送ってくれた。
「お誕生日おめでとう。この年は絶対いい一年になるよ」
 彼が腕を広げたからぎゅっとハグを返した。
「ありがとうなまえ。おたがい自分のポケモンをゲットしたらバトルしようね」
「ぜったいだよ」
 お父さんの車に乗ってしっかりシートベルトをしめた。今日の主役を玄関にひきとめるわけにもいかなくて、すぐ窓を開けてできる範囲で乗り出して手を振った。
 絵の具とスケッチブック、喜んでくれるといいな!




アーティさんの口調、特に語尾で迷ったんですが、スクールってみんなだいたい10歳前後だから、現行の話し方ではないだろうと思って控えめにしました。
メール交換をほとんどやったことがない人が、最後にメッセージつけたくて、ゲーム内の文面が曲者すぎたのでちょっと手を加えてつつ、できるだけゲーム内のことばでつくろうとして挫折しました。
たんじょうび おめでとう!パーティ− よんでくれてありがとう!
またおえかきしようよ!よろしく! みたいな感じにしかならなかった……

年齢差つけて2学年くらい上でもよかったなと思った


Make a wish/願いをこめて

拍手
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -