スタンド使いの行く学校



※転校生のなまえさんがシーザー先生と話すだけ
※前に掲載していた長編の第1セメスターの1話目です。好評だったら別ページを整えて続きを公開します。


 アメリカ本土に足をつけてから早数時間。
 空港に来た迎えの車がベンツでなまえは一瞬息が止まった。庶民らしいなまえに緊張の糸がぴんと張る。道中は目隠しをして、学園の位置が特定できないようにするためだとか、どんなVIPの通う学校なんだと尋常ではない方向に話を持っていくシチュエーションに戸惑いを隠せなかった。
 たどり着いた学校はコンクリートとタイルと、ところどころ温かみのある木材が使われた変哲もない現代的な建物でほっとした。
 ロッカーが廊下に敷き詰められている。ハイスクールミュージカルで見た光景。

「それで、あの、シーザー先生。私クラスに馴染めるか心配なんです」
「大丈夫だよ。前に同じことを言ったやつが居たが今じゃすっかりこの学園の一員になってる」

 なまえの担任だというシーザーは羽の装飾のついたバンダナを頭に巻いてフェイスペイントを施していた。今日が何かの行事ではなく普段通りのようだった。なまえは彼の気障な話し方に少し距離感を図りかねていた。ところどころ数秒の沈黙をはさみながらも、なまえの受け答えはしっかりしていた。ピアノも習字もやめたけれど、英会話だけは続けてきたことに心の中で日本にいる両親に感謝した。
 廊下の突き当たりにあるのが、赤い扉の多目的ルームだった。床は樹脂フローリングで部屋の中央の壁にホワイトボードがつくりつけられている。

「いったんスーツケースはここに置いてもらう。しばらくしたら案内役が来る。寮に行くのはそれが終わってからだ。今日は金曜だからな、午後にまた俺とは顔を合わせることになる。工程表にあったように明日あさっては休み。授業のことは月曜に話そう」

 なまえは短く返事をして、スーツケースを端に寄せてバックパックだけを持った。それから躊躇いがちにシーザーの顔を見て俯いた。……態度と裏腹に伏せられた目には期待が宿っている。

「やっぱり不安か?」

 根気よくなまえが話しはじめるのをシーザーは待った。彼女は胸の底にずっとあった疑問を呈した。

「――ここでは生徒全員がスタンドを使うって本当ですか」

 スタンドという響きはまだ耳の縁にたまる。知り合って一ヶ月ほどの単語だ。刺激的な響きがなまえにこだました。
 シーザーが「もっともな質問だ」と口角を上げる。
 全員が正真正銘スタンド使いだ。彼は間違いなくそう言った。

「俺はスタンドとはまた違う波紋というのを使うんだが、ややこしくなるから割愛する」
「えっ」
「生徒たちは全員スタンドを持っている。友達を作るのに既にひとつ共通項ができてるってわけだな」
「なれるといいですけどその、友達に」
「なれるさ」
「私の『スタンド』でもやっていけそうですか」
「それはなまえ次第だな。個性的なのが多いからそこだけは苦労するかもな」
「そうですね。……はやく皆の能力が知りたいです」
「そのための金曜だ。確かめられるぜ」

 ちょうどチャイムが鳴った。ちらほらイスと床の擦れる音が聞こえてくる。
 ――さっき、黒の車が駐車場に入ってくるのが見えたんだよ!
 ――本当ですか。
 ――うん、学校の外から来た車だよ。
 ――それを見つけて騒いで先生に注意されたでしょう。隣の僕のクラスまで響いてきたんですから。
 ――おい。笑うなよ、笑うなって!
 男子生徒たちの声が楽しげに階段に反響していた。生徒の活気に満ち、休み時間の雰囲気は明るかった。あの声の中にクラスメイトがいるのかもしれないと胸が跳ねた。
 他にもなまえの耳に届いた音がある。
 小刻みなヒールの音が多目的ルームの前で止まったのだった。

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