うらまど



 彼女と二回目に会ったときそこは教室の外で、生徒と講師の皮を脱いで話したときのこと、途中で彼女が少し声のトーンを変えたのを憶えている。
 傘を持たずに出たのを「敢えて」と彼女は形容した。
 彼女はS市行きのバスに乗った。角を曲がるバスを見送った。
 そんな三ヶ月前と状況が似ている。
 雨に濡れて頬の色を失うまで、雨の中に彼女はいた。ふいに窓のほうを見たら家の前の歩道に彼女が立っていた。開いているから入ってくればいいのに、外だ。
 僕は外に出て、サーッとカーテンがレールを走るような雨音を聞いて存外大変なことになっているのに気づく。
 どうして僕まで濡れなきゃならないんだ。安全圏を出て彼女の腕を掴む。家に入って奥からタオルを持ってきて彼女に手渡す。
「なんで入ってこない」
 滴がグリッターみたく彼女を彩っていた。
「えっ開いてたの」
 こちらの焦りなど気に留めずこの様である。
「せめて軒下にいろよ」
「いきなり来たらわるいし、ねぇ」
「顔面蒼白になられたほうが心臓にわるい」
 そうしてシャワーを貸す羽目になる。替えのシャツなんてない。これも当然貸す羽目になった。返さなくていい、と言葉を投げる。生返事をされる。
「なんで露伴くんの家に来たかったんだっけ」
「僕が知ってるわけないだろう」
「あ……作品だよ! この前作った分を今日焼いたんだけど、出来が良かったから伝えたくなったんだ」
 まったくこの女は僕の扱いに困らないらしい。『これからも来てくださると嬉しいなぁ』と、僕がハタチだと知ると軽く敬語を崩した女。彼女はその後にそっと『筋がいいから絶対上手くなりますよ』と添えて僕を少しだけその気にさせた。
「聞いてる?」
 リビングのソファに座り、サイズの合わないシャツを着た彼女が無邪気な笑顔を向けてくる。
「ああ。で、その釉薬がなんだって」
「色がいい感じに出たんだよ。地が綺麗だからお互いに引き立て合ってる」
 彼女は想像のなかの器に触れながら指を細かく動かして、にこやかに語る。
 やはり三ヶ月前と似ている。
 彼女の額に手をあてて、本にする。僕だけが焦れている。
 僕のひと筋縄ではいかない性格はなまえに見抜かれていて、相変わらず彼女の態度はフラットだ。悩みの種の彼女は僕を意にも介さず、彼女の恋人はなまえを手放さない、その仲も至って良好。
 2ヶ月前の書き込みが残っている。
 “岸辺露伴はみょうじなまえの例外になる”
 文字列の下に擦った跡が残っていて文字がぼやけている。例外になったところで何も変わらないのだ。何にたいしての例外なのかは書いた本人もわかっていない。彼女に何かを残したかった。それだけだ。

拍手
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -