割りたい太陽(男主)
気づいたら目で彼を追うようになって、思考の途切れ目に彼のことを考えていて、僕は彼に告白を試みたのだった。
恋人の存在をやっと世間話的に確かめたあとだ。恋愛らしい恋愛はしたことがないと彼が答えた。それから話題は流行りのドラマに移った。彼の絡む記憶を反芻している。
告白というのは、普段の自分からは考えられない行為だった。僕はこのときエジプト旅行をこの数週間後に控えていて、なにからしくないことをさせる脳内物質がでていたのか、またはなまえの引力が僕の軌道を逸してしまったのかもしれない。
「それで、付き合って何がしたいとかある?」
なまえは淡泊に聞こえるような、彼にとっては戸惑いも何も持たない言葉を僕に投げかけた。純粋な疑問だよと彼は補足する。
「誰かに好きになってもらうのはすごいことだろ」
口を開いたがそこから言葉がすんなり出てくることはなく、逡巡ののち「何って……デートに行ったりハグしたりとか」
口に出す恥ずかしさが勝って強気に出ることはなかった。きっと特定の何かをするために付き合うものではない。一緒にいてほしいから思いを伝えた。僕のしたいことは暗黙の了解として「すること」で、それは恋人関係に横たわっているものではないのか。
「それくらい友達でもできるよ」
遊びに行くくらいならいつでも誘えよ。
「ああ、うん」
彼は彼の言葉通り、僕と同じくらい、いや以上に恋愛に疎かった。
彼は遠くの雲を眺めて少し噛み締めるように言った。
「ごめん。付き合うのはちょっと難しいかもしれない」
ランニング中の部活生の掛け声が背を通り過ぎて行った。
恋愛感情の薄い彼は、同性間の恋愛に嫌悪感もない。
男同士が付き合って何をするのかよくわかっていないんじゃないだろうか。
それからしばし沈黙があった。当たり前だ。
彼が俺こっちだから、と地元の人で賑わう商店街を抜けていった。いつからか彼はもう少し長く話せるようこの近道を通らなくなっていた。今日は例外だったと明日言えるのか。濁って焼け落ちそうな夕焼けが商店街のアーケードから姿を見せていた。
あの日の黒い太陽が車窓に浮かんでいた。
純粋な疑問。恋愛感情の薄い彼だからこそ、僕は「普通のカップルがやるようなことだよ」と彼に伝えればよかったのか。
彼の上向きの睫毛にそっと乗るような、俯いた僕の視線を奪った純粋な疑問。あついだけの斜陽に感傷をなじられた。
二度目のエジプトは楽しい旅だ。
胸にとっくの昔についた焦げ跡がすとんと抜ける気がした。
僕は失恋をおぼえた。友達以上の関係が、友達としての関係を超すことはなかった。