シープドッグ/夏油
※去年の書きかけ
※この話とは関係ないが、原作で夏油乗っ取りが明かされる前に書いた
街中で、後ろ姿でどうしてわかったのか。
日も暮れた渋谷の人混みをかきわけて袈裟を着た男の袖を掴んだとき、自分でも驚いた。二年近く会っていなかった。何より、風見鶏みたいな自分がそんな行動に出たことに。今思えば袖を掴めたということは私は脅威と認定されていなかったのだ。振り払われる、と直感がはたらいて食い込むくらいの力がこもった。そのときは必死で、彼を、彼の袖を握りしめたまま「立ち話もなんだし」と近くファミレスにひっぱりこんだ。
彼が薄く笑みを浮かべて、その実なんの色も無い表情で私の目の横に座っていた。状況が全て信じられなかった。彼を逃がさないように服の上から腕を掴んで、なんでも頼んでいいよとメニューを押しつけた。
ウェイターに私はざるそばと適当な飲み物を頼んで、彼はメニューの一番上のメニューを指差した。記憶をたどって彼の好物を注文できるくらいのしあわせな頭をしていた。
「分け合えば喜びは2倍に、かなしみは半分こになります」
自分でも何を言っているのかわからなかった。ただ、戻って欲しいとかそういう言葉がやたら前向きに響くのが嫌でたまらなかった。だから、ただ願望が滲んだことをぽんぽんと思いついた端から投げかけていった。
彼が思わず吹き出した。素が出た。やった。
「なまえには教祖の素質無いね」
口を突いて出たのは、夏油、と自分でも情けないほど掠れた声で視界ちょっと滲んだ。
やっとかつての同級生から感情を引き出せたのに、ファミレスでそう言われたあとから記憶が無い。
気がついたら、自分のマンションのワンルームにいた。
蛇の道は蛇だ。その意味を知らないわけではなかった。
夏油の離反をきいても尚それを信じられずにいた。上からおふれが出るまで、私はいつまでも彼を呪術師だと思っていた。おふれが出たあと、よかったって思う自分を殴りたかった。
同じ草の道を之く者??
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