DFZ/露伴
 訪ねてきたものを宅配便かと思い違いをして、条件反射でドアを開けてしまった。
「泊めてくれない」
 宗教の勧誘か訪問販売なら軽くヘブンズ・ドアーであしらうが、大袈裟なショルダーバッグを斜めにかけて、なまえが事情にくわしい僕に助けを求めてきた。その事実がやたら視覚に訴えかけてくる。なんだか勝ちをもぎ取った気分で、表向きは微苦笑で「別れ話か?」と訊いてやった。
「兄家族が帰省してて、実家に居場所がない」
 お願いしますと部活の助っ人を同級生に頼む学生みたいに僕に頭を下げるから思わず笑ってしまった。
 さらに菓子折まで出してくる始末で、いい返事が貰えるまでてこでも動かない雰囲気だけはかもしている。
「ただでとは言わないから」
「とりあえず中に入れよ。茶くらい出すさ」
 ぱっと笑顔になるから容易いものだ。僕が中に入るまで律儀に待つのも靴を綺麗に揃えるのも好感が持てた。
 押し付けられた菓子と茶を出したタイミングですぐに彼女は話を持ち出した。
「矢で射られたことはある?」
「ある」
「嘘でしょ……! 車に轢かれたことは?」
「轢かれかけたことなら」
「えっと車に轢かれて……燃えた、炎上もつけられる!」
 やけにもったいぶった話し方をする。それか話しにくいことなのか。
「そろそろ本題にいかないか」
「私のその何、スタンド、知ってると思うけど、で体験した記憶を一宿一飯の対価にできるかな」
「君の能力を僕はよく知らない。聞く度に濁されるからな」
 それを、先に知り合ったスタンド使いというだけで仗助や億泰が知っているのが腹立たしい。康一くんも彼女の能力に関してはだんまりで、逆に僕のほうが釘を刺された。
「人の死因がわかる」
 なまえは開き直って言葉を丸めずに口にする。
「しかも追体験してるの。……露伴くんの漫画って人が死ぬんだよね?」
 僕から彼女にスタンドの話を振ることは殆どなくて、彼女は僕の能力を知らないはずだった。大方あの高校生たちから情報が伝播したのだろう。
「十分なリアリティーだな」
 談合が成立させたいらしい彼女は頷いた。
「相場がわからなくて、何ページで一泊分になる?」
「相場なんてあるわけないだろ」
「でも記憶と交換で生原稿見せてもらったって聞いたよ」
 きっと康一くんはぼかしながら話しただろうから、実際のことが捻れて伝わっているな。たぶん人の記憶が読める程度のことしか聞いていない。何も間違っていないのだが、ヘブンズ・ドアーの能力を知って、読んでもらいたいとくる奴は見たことがない。
「それじゃあ僕が君に頼むよ。滞在費1ページ1時間で内容によって色をつけよう」
 彼女と過ごす口実が歩いてやってきた。
「よろしくね」
 彼女は静かに目を閉じる。僕は彼女を本にした。
 彼女に書き込んだのは"岸辺露伴は例外になる"という文言だけだ。

気が向いたら続きを書きます。
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