君はテンダー

 私はディタのことをかわいいお人形みたいだと思ってた。
 彼女と、彼女の姉のライチさんと私で高校生になった今もよく遊ぶ。
 ディタは性格はそんなに変わってなくて、仲のいい子にはちょっと負けず嫌い。でも基本的に争いは好まない。小学校低学年までは結構喧嘩もしていたから成長したのだろう。めんどくさいことも好きじゃない。仲間内で意見が割れたら仲裁に入ってくれるほうではあるけど、もしぶつかっているのが自分の意見とだったら、自分がどうしてそうしたいかだけ簡潔に述べて結論は相手に委ねがちだ。
 ディタのほうがいいことを言っているのに、相手側が意見を通してヤキモキすることもあった。去年の文化祭だけはよかった。他の案であるメイド喫茶をやることになって、ロングスカートのクラシカルなメイド姿の彼女を拝めた。それ以外は特に私は益を受けていない。
 ライチさんは私たちが高校に入る頃には短大を卒業して立派な社会人になっていた。ディタ曰く、帰ってきては電池が切れたように眠りに落ちて自分がベッドまで運んでいるから立派といえるかは微妙らしい。
 ライチさんはディタとは違って物事にスパスパ物申すタイプでドライな人だ。付き合うならライチさんだと思う。はちゃめちゃに美しい、自まつ毛が雪でできているみたいに白いライチさんを推す。ディタは友人すぎて憎たらしいときがあるので。
 ライチさんはライチさんではっきりしてて意図せぬところで敵が生を受けているタイプでもあるので好みが分かれる。
 なんで性格分析が起きているかというと、なぜかクラスでブームになっているプロフ帳を代わりに埋めてくれとディタに頼まれたからだ。専用サイトを使えば携帯やスマホで見れるのになんでアナログでと思わんでもない。
 ディタは演劇部のエースになって以降、人気うなぎのぼりで下級生から告白を受けたり、廊下でファンサを求められたり、出る舞台のチケットはソールドアウトで校外からも人がくる。
 「演劇部の王子様」ディタが大好きな人たちは、彼女を入部させた私の慧眼に感謝してほしいし、私のかわいいかわいいディタちゃんを最高にキマっている彼にしたい生徒ナンバーワン(各人のプロフ帳流し見当社調べ)にした私の苦渋の決断を讃えてジュースでもパンでも奢ってほしい。勿論ディタには女性の役を演じることだって選べたのだから。
 彼女のディレクションは私がした。現在進行形でしている。ファンシーな紙の上で、彼女の好きな食べ物はアラビアータ(語感がよかった)、好きな音楽はコールドプレイとジョナス・ブラザーズになっているし、好きな教科は英語だし、中学ではバレーボールをしていたことになっている。実際は甘党で購買のしっぽまで詰まっているチョココルネが好き。この前は寄り道してあんまんを半分こして、2人であつあつだねーって言いながらホチキスの芯と同じかたちをしたポールによりかかって食べた。音楽は洋楽も聴くけど日本のポップスのほうが好き。教科で一番好きなのは現文。これは先生が優しいから。バレーボールは半年でやめた部活。ギリルールは覚えているそうです。嘘は書いてない。
「何枚もあって書かせるんだから文句言わないでよね、もはや写本なんだけど、平安時代か?」ってぶつくさシャーペンを走らせる。彼女は速書きだとだんだん字が丸っこくなるのを、カードを受け取る君たちは知らなくていいよ。
 彼女が演劇部に入るのを渋って私と駅前のマックで3時間くらい駄弁ってたことも知らないまま生きていてください。演劇を進めたのは、1年のときのクラブ紹介のときに照明の当て方について私と話していて一歩も引かなかったから。忌憚ない意見とはこのことだと閃いて、私以外でも意見できるならと確信めいたものを持って薦めた。
 入部してから彼女は変わった。
 今まではモデルって感じだったけど、今のイメージは火10とか木10に出てくるイケメンになった。月9にはたぶんまだちょっと濃い。1年の1学期だけ長髪だった話はファンの間で軽く伝説みたいになっている。
 ちなみにベリーショートにしてきたときは衝撃で30秒くらい何も言葉が出てこなかった。似合ってるよォ……と声をひねり出した。
 ディタちゃんには中等部のときに既に身長を抜かされて、その時点で私は彼女の騎士になれないことを悟ってしまった。小さくても勇ましい甲斐性を自分が持ち合わせていないことは誰よりもわかっていた。
 ナイトになるならライチさんを選択するべきだった。
 大人になっても笑って流してくれるし冗談に乗ってくれる。見た目はずっと可憐なドール級。
 私の前で見せてくれるディタの可愛らしい部分を独り占めしたくて、外側を固めたのは私なのだ。彼女は望んだとおりの桜塚ディタを作ってくれた。私はディタを好きで、この感情をラベルわけしたくない。わがままを通す事を彼女は私に許した。彼女の柔らかな内面に鍵をかけてしまいたい。そのことをきっと彼女はわかっている。




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