もう7年

付き合い自体は長いけれど、たまにしか会えないから、今朝急に「会えないか」と連絡が来た時はもうてんやわんやで、どうして店に着いてから届くかなあと嘆息した。書いた日付と届いた日付に1週間くらい開きがあった。封筒は角が丸くなり、3分の1くらいのところで折れ目がついていて、中身を見ると、可愛いあなたに始まり、少しの間留守にする旨と帰ってくる目安、私を引き離さないための言葉がさらさらと連ねてあった。結びに最善を。こういうところで、愛してる……は行きすぎだけど嘘でもつけばいいのに踏み込んでこない。お前も一線は守ってくれるよなと念押しされている感じがある。顔を合わせればわざと甘いことを言ってからかってくるのが常だが。
 今回は結構おおごとらしい。別にあんたのこと待ったりしない。忙しさにかまけて言い訳にしたいんじゃないだろうか。手紙が届かなかったらそれまで。
 靴はましなものを履いていてよかった。最後の客が帰って早めに締め作業に入る。今日着てきた服は久しぶりに会うにはラフすぎるから、店内から新作のワンピースを取ってレジに通す。タグを切って試着室で着替えて、一緒にメイクも直した。及第点。店を閉めたときには心臓がばくばくが止まらなかった。私、いま本当に可愛い? クエスト帰りで疲れているだろう人にたいして気合い入りすぎてない?
 彼と会うときはいつも私の働く店の近くのこぢんまりとしたレストランで待ち合わせる。マグノリアの町は魔法が慣れ親しまれているとはいえ、世間的には魔法を使えない人のほうが多いから常に魔法は便利なものだと思われている。無茶振りをされても困るから私は人前で魔法は使わない。
 最近の彼はどんな心情の変化があったのかわからないけれど、私含め周りに対して優しくなった。前よりギルドにも馴染めているみたい。ギルドでいい影響を受けているのは好ましい。次、彼の変わるきっかけが私であればいいな。彼といると欲が尽きない。
 彼が約束をすっぽかしたことはなかった。数十分経過しても彼はやってこなくて、しびれを切らした店員がオーダーをとりにきた。謝って私は飲み物の代金だけ払って外に出る。
 意を決してギルドに向かう。ギルドまではカルディア大聖堂を抜けてまっすぐ。冬の最中で息が白い。随分と日が暮れるのが早くなった。先日降った雪が道の端にかき集められている。おろしたてのワンピースに水がはねないように気をつけながら私はいたずらっ子の気分で揚々と町を高いヒールで横切っていく。別に彼も怒らないだろう。だってあんたがわるいんだよ。知らせるのも遅ければ来てもくれないし。もう何回も会ってるんだから友達に会わせてくれたっていいんじゃないかな。ファッションが好きなら同じチームのエバって人とも話が合うと思うよ。ラクサスさんやフリードさんとはわかんないけど。実はギルドに行くの初めてじゃないんだよね。前に行った時は名に違わぬ喧騒で扉を開けたくらいでは気づかれなかった。扉を開けた瞬間に喧嘩の衝撃で近くのテーブルが薙ぎ倒され、ビンや皿が割れ、こちらに飛んできて扉に刺さった。血の気が引いた。こんな恐ろしい場所長居してたまるかと見渡すと奥のほうに4人でいるところを見つけた。話しかけようか迷ってやめた。たぶん誰かと2人だったら声をかけていたと思う。納品のついでに何気ない感じでまた店来てよねって。でもラクサスさんや雷神衆といるところを見たら、心からそこにいられる幸せみたいな、三者三様の仲間を思いやる顔をしていて邪魔しちゃいけないなと思わされた。
 ところで、前に会ったのいつだっけ?
 魔導士の日常が一般の人とかけ離れているのは店に来るお客さんを見ていても知っていたけれど、クエストに行っては数週間帰ってこないのもざらとなると彼と仲間たちは強いんだろう。土産話を聞くのも好きだった。私なんかは本店に服の受け取りに行く道中で乗っていた魔道四輪が魔物に襲われかけた。保険に入っていたのを思い出して泣く泣く乗り捨て近くの茂みに隠れて過ごし、事情を説明して近くの村に泊めてもらったが、その話をしたらつい先日その村から依頼があって魔物の群れを片付けてきたとけろっとしていた。10代の頃にギルドに入ってすぐにこの仕事で稼ぐのは無理だと悟った自分とはスケールが違う。なんだかんだ魔法が使えるとバレてから、仲間意識みたいなものから彼と合う頻度も増えた。でも私が話したがらないから最近では聞いてくることもなくなった。
 何か買っていってあげようと思ったけど、人数も把握していないし、たぶん見積もっただけでも破産する未来が見えた。……早く会いたい。




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