10

  
 ヴヴ、と振動が床を伝う。開いたままの台本の下から手探りでスマホを探し当てる。うつ伏せのスマホの画面から光が漏れている。
「でぃたぁ」
「なに」
 ***からだ。最近気になってる子。
 この前バーで隣に座って、同じバンドが好きだったのがきっかけで連絡先を交換した。
「あ、ねてた? ごめん。すぐ切るね」
「別にいいけど。何?」
 スマホの時計を見ると、1時。僕は大方台本を読みながら寝落ちしたんだろう。
「お酒飲んでたらさぁーディタのこと思い出してさぁ。ふふ」
 なにそれ。かわいい。電話をスピーカーに切り替えてあたりを片付けてベッドに移動する。興味無い人からだったらもう暑くて使わない毛布にスマホを埋めていたところだ。
「で?」
「でー、電話かけてみた」
 ん、と相槌を打つ。
「スピーカーにしたでしょ」
 声色に少し不機嫌の色が滲んだ。急いでベッドサイドでプレッツェルの5倍くらい絡まったイヤホンを手に取った。
「うん」
「今なにしてるの」
「寝てた」
「そっかぁ。いい子は寝る時間だもんね」
「何飲んでたの」
 イヤホンコードをもてあそぶ。絡まりを解こうとして余計よくわからないことになっている。
「桃味のチャミスル。めっちゃうまい。永遠に飲める」
「飲みすぎないでね。今日は迎えに行けないから」
 今の段階で電話をしてくるくらいには酔っているから心配だ。
「んー、気をつける。たぶん、もうすぐ彼女が拾ってくれると思う」
 なんだ。彼女がいたんだ。あれ、教えてもらってたっけ。あのとき酔ってたから覚えてないな。
 マジで履歴にあって目についたからかけてきただけだこれ。
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