14

  
 『ディタ』ちゃんはわたしを一ミリも覚えてないんだろう。
 わたしも『ディタ』ちゃんのことは知らない。
 好きなアーティストのミュージックビデオに古い友人が出演していて、ほんのり目のあたりにのこっている面影を懐かしんだ。彼女に気づいたのは偶然だった。
 小学校の頃に何も言わずに彼女は転校していった。
 動画のコメント欄を嘗め回すように見てタレントだかモデルだか知らない、彼女の名前をみつけてこころの奥をくすぐる喜びがやってきた。
 『ディタ』ちゃんは役者である。これは予想していなかった。劇団のホームページには芸名と生年月日と仕事に対する意気込みとバイオグラフィーのみ。年表は10年も前からはじまっていた。
 いつか会いにいってみよう。そう思ってページ上部の現在公演中の文字をタップしたとき、インターホンが鳴って、どきっとした。時間指定の宅急便に驚かされて、今日がもう午後にさしかかっていたのに気づいた。

『代わりにうたってくれますか』
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -