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ビュッフェのローストビーフが美味しくて、虫の居所の悪さもどうにか持ち直してきた。
「***、久しぶり。元気してる?」
声で判断した。演劇部の桜塚さん。彼女が印象に残っていない人間のほうが少ないだろう。
肯定とも否定ともとれるような返事をした。
「髪今短いんだね、いいね」
「桜塚さんも」
彼女はにこっと慣れたふうに軽く歯を見せて笑う。その笑顔に心がよろける。私の前の席が埋まる。彼女が手に持っていた卒業アルバムを広げた。せまいテーブルをアルバムが陣取った。見開きの寄せ書き。同じクラスからだけじゃなくて隣のクラスの子からもびっしり書き込まれていた。色つきのペンで『ズッ友』とか懐かしいことばが並んでいる。この他にも彼女は演劇部から桜の花びらをあしらった色紙をもらっていたはずだった。
忘れていると思った。彼女が指さしたのは端っこに小さく書かれた文字だ。たしかに『好きでした』とそれだけ。「私」はきちんと別のスペースにメッセージを書いている。筆跡も変えている。どうしてわかったんだろう。
委員会以外でまともに話したことないのに。
熱っぽくて保健室にいたとき、カーテンの間から見えた彼女の横顔が綺麗で忘れられなかった。
アルバムに載らない思い出。
『答えあわせ』