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 恋愛と友情とご飯のこと、あとたまにロマンチックなダンスパーティも織り込むと原稿ができあがった。
 思い出の消化が下手で外部のサポートがないと平然としていられない。
 それもあって未来の部長のために不器用な脚本を書いて、階下の教室でプリントアウトしたト書きを受け取ってもらう。引退寸前の三年生なのに無理言って台本をつくった。後輩の扱いが下手な先輩はこれでも副部長だったんです。部室のロッカーにやっぱりうちひしがれていた脚本を中等部の後輩に褒められて舞い上がった。褒め言葉をくれた子が私の勧誘で部活に入ってくれたのがうれしくてその日の日記に走り書きをした。あの子が次期部長になる。
 わざとあてがきした。かっこいい衣装を着てほしくて、題材はシンデレラにした。姫役が霞むくらいの王子様は、銀に光る長い髪をシンプルなゴムでひとまとめにしてメイクを施して出来上がった。衣装に相まって凛としている。
 文化祭当日。体育館は五月晴れに蒸されていた。部員で手分けして全部のカーテンをひくと冷えた風が耳元を通った心地がした。開演のブザーが鳴る。上手から登場。きらきらとランク高めのサテン生地が反射している。『このガラスの靴がぴったり合う人をはなよめにしよう』。王子の第一声が私の呼吸を止めた。劇はおおむね滞りなく失敗なく幕を閉じた。舞台裏への階段を上る。片付けを手伝って、無事短い昼休みの間に余韻ごとほんとうに劇を終わらせる。
 先に役者陣は廊下の開けたスペースに出て、簡単に挨拶と部活の紹介をしていた。それはわが校の伝統だった。キャストたちはすでに観客に囲まれていた。OBが王子を粗削りだけどと前置きしつつ称賛しているのを遠巻きに見て、スポットライトを浴びるのは私でなくていいと心の底が沸きあがった。一番最初に駆け寄れなかったのでもう私の本当に伝えたかったこととか熱が完璧にその場を逃げてしまって、私は靴の片方をディタに押し付けるつもりだったのに、実際消化不良の胸に残ったのは置いていかれたほうの靴だ。
 同級生の誘いを断って突っ立っているのが気まずくて廊下を立ち去る。近くで保護者会がドリンクを売っていたから二本買って、元来た道を戻る。

『プラスティックチューン』
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