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 高い位置の雲がうろこを落としながら、海上を抜けていく。
 劇団の夏公演を告知動画のあらすじはこの一文からはじまった。
 再生数は千と七百回。
 主演の子に今回の劇の梗概を概要欄に五行ほどで書くよう任せた。事前のチェックで欄内に文字通り説明の二文字しかなくて、驚いて一つ息を吸って冷静に画面をスクロールしたら別のところに五行きっちり埋めてあった。そこは動画のタグをつける場所だよ。
 案外書類とか苦手なのかな。俳優たちが確定申告に頭を弱らせていて、詳しい人を紹介したのはごく最近で、そのなかに彼女がいなかったからなんとなく心配になった。なんともない顔をしていても、やりかたを知らないせいで放置している可能性もある。
 稽古の合間に彼女のもとへ行って確認をとる。
「休憩中ごめんね。これ全員に聞いて回ってるんだけど、いま書類の申告を手伝ってくれる人を紹介してて、ディタさんは必要ある? 相談はタダだしよかったらライングループに招待するよ」
 額を大判のタオルでおさえながら彼女は私が手渡したプリントをざっと上から下まで眺めた。
「こういうの姉が教えてくれるから大丈夫そう」
 語尾があいまいになった。
「了解。それでも困ったらいつでも聞いてね」
 うん、と素直に返事をくれる。いい人だ。もっと素直にもう一個役所に提出する紙がでてきたと連絡が来たのは後日だった。

『ひかげ』
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