恋人と二人で乗る観覧車とは、もっとこう、甘い雰囲気が漂ったりするもんなんじゃないだろうか。きゃー!たかーい!とかなんとか言っちゃったりして(そんな柄ではないけれど)、はしゃぐ彼女を見守る彼氏、というのはわたし達二人にとっては幻想過ぎたのだろうか。目の前で今にも座席からずり落ちそうになりながら、おっかなびっくり地上を覗き込んでいるスパンダムさんを見て苦笑する。高いところは得意じゃないと聞いていたけれど、顔を真っ青にしながら微かに膝を震わせているその様子は明らかに得意じゃないの枠を超えているような。
「あ、あのー、スパンダムさん」
「あァ!?声かけんな!気が散るだろ!」
「……高いところ苦手なら、先に言ってくれたら良かったのに」
「お、お前が、どわァ揺らすなァ!」
「揺らしてないですよ、スパンダムさんが暴れるから揺れてるんです」
口だけは威勢の良い彼だが、声をかけた瞬間飛び上がって気が散るとまで言い放ったものだからもう肩をすくめるしかない。お前が、と言いかけた言葉の続きはわたしを責めるものだったんだろうか。些細な揺れにも飛び跳ね、見えない敵と対峙しているかのように身構えている彼に、どうしたものかと途方に暮れる。今日は間違いなく人生で最悪のデートだ。観覧車に乗りたい、だなんて提案した数分前の自分を呪いたい。そんなわたしの沈む気持ちとは反対に、観覧車はゆっくりと頂上を目指し上っていく。
「……そろそろ頂上、か?」
完全にお通夜ムードで静まり返る観覧車内でぽつりと聞こえたその言葉に、頂上を気にする余裕なんてあったのかと思いつつ顔を上げると、強引に頭を引き寄せられてキスをされた。ん、……え?このタイミングで?なんでキス?と頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。呆然としていると彼の唇がゆっくりと離れて行った。至近距離で見つめるその顔は未だ青白い。落ち込んだわたしを気遣える余裕なんてさっぱり無さそうな彼の行動に困惑していると、とんでもない言葉が続けられた。
「か、観覧車の頂上でキスしたら、永遠に別れねェって……!お前が読んでた雑誌に……っ」
「……え?あ、」
それは、一昨日寄ったコンビニで目についた、体験談を交えた恋のおまじない特集の雑誌に載っていたジンクスの一つだった。観覧車の頂上でキスをした二人は、永遠に別れないという在り来たりなもの。暇潰しに買って、居間のテーブルの上に置いてあったのを読んだのだろうか?……スパンダムさんが?あの、笑ってしまうほどベタベタに甘ったるいシチュエーションが詰め込まれた雑誌を?怒られると思いつつ、口元がにやにやと緩んでしまう。
「別にそういうの信じてるとかじゃなくてだな……!なまえが熱心に読んでたから……!!」
そんなわたしに気づき、スパンダムさんが顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。その際に腰を浮かして、その反動で揺れた観覧車にまた悲鳴を上げ、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。そんな彼を見ながら、いつも騒々しくて自己主張の激しい人だけれど、ちゃんとわたしを想ってくれていたんだと嬉しくなった。彼が、わたしとの永遠を願ってくれた。そう思うだけで、わたしの胸は幸福で満たされてゆく。
「……永遠に、離さないでくださいね」
そっと彼の手を取って笑いかけると、涙目になりながら、鼻を真っ赤にしながら、それでも彼はわたしをまっすぐ見つめて。ブァーカ、当たり前だろ、と笑い返してくれた。
いっそ呪いみたいな900秒のおまじない
「あ、あのー、スパンダムさん」
「あァ!?声かけんな!気が散るだろ!」
「……高いところ苦手なら、先に言ってくれたら良かったのに」
「お、お前が、どわァ揺らすなァ!」
「揺らしてないですよ、スパンダムさんが暴れるから揺れてるんです」
口だけは威勢の良い彼だが、声をかけた瞬間飛び上がって気が散るとまで言い放ったものだからもう肩をすくめるしかない。お前が、と言いかけた言葉の続きはわたしを責めるものだったんだろうか。些細な揺れにも飛び跳ね、見えない敵と対峙しているかのように身構えている彼に、どうしたものかと途方に暮れる。今日は間違いなく人生で最悪のデートだ。観覧車に乗りたい、だなんて提案した数分前の自分を呪いたい。そんなわたしの沈む気持ちとは反対に、観覧車はゆっくりと頂上を目指し上っていく。
「……そろそろ頂上、か?」
完全にお通夜ムードで静まり返る観覧車内でぽつりと聞こえたその言葉に、頂上を気にする余裕なんてあったのかと思いつつ顔を上げると、強引に頭を引き寄せられてキスをされた。ん、……え?このタイミングで?なんでキス?と頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。呆然としていると彼の唇がゆっくりと離れて行った。至近距離で見つめるその顔は未だ青白い。落ち込んだわたしを気遣える余裕なんてさっぱり無さそうな彼の行動に困惑していると、とんでもない言葉が続けられた。
「か、観覧車の頂上でキスしたら、永遠に別れねェって……!お前が読んでた雑誌に……っ」
「……え?あ、」
それは、一昨日寄ったコンビニで目についた、体験談を交えた恋のおまじない特集の雑誌に載っていたジンクスの一つだった。観覧車の頂上でキスをした二人は、永遠に別れないという在り来たりなもの。暇潰しに買って、居間のテーブルの上に置いてあったのを読んだのだろうか?……スパンダムさんが?あの、笑ってしまうほどベタベタに甘ったるいシチュエーションが詰め込まれた雑誌を?怒られると思いつつ、口元がにやにやと緩んでしまう。
「別にそういうの信じてるとかじゃなくてだな……!なまえが熱心に読んでたから……!!」
そんなわたしに気づき、スパンダムさんが顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。その際に腰を浮かして、その反動で揺れた観覧車にまた悲鳴を上げ、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。そんな彼を見ながら、いつも騒々しくて自己主張の激しい人だけれど、ちゃんとわたしを想ってくれていたんだと嬉しくなった。彼が、わたしとの永遠を願ってくれた。そう思うだけで、わたしの胸は幸福で満たされてゆく。
「……永遠に、離さないでくださいね」
そっと彼の手を取って笑いかけると、涙目になりながら、鼻を真っ赤にしながら、それでも彼はわたしをまっすぐ見つめて。ブァーカ、当たり前だろ、と笑い返してくれた。
いっそ呪いみたいな900秒のおまじない