「ねぇラフィット、聞いて」
「……おや、これは珍しいですな。あなたから声をかけて下さるとは。どうかしましたか?」
わたしは極力彼と話さないようにしていた。理由は、少し難しい。簡単に言うと、わたしは正常で居たかったから、それだけなのだけど。
「わたしを殺さないの?」
彼と話そうが話すまいが、わたしはとっくに正常ではなかった。始めは、彼の一方的な愛をただ受け止めるだけだった。受け止めなければ殺されると思った。彼の満足するように振る舞えていたかは、わからない。時には彼を突き放したし、さっき彼が言ったとおり、口もききたくなかったから無視もした。
「……あなたを殺す?」
けれど、彼はどうしようもなく優しかった。血の匂いを漂わせて帰ってくるくせに、わたしに暴力を振るうことは一度もなかった。わたしが一度嫌だと言ったことはしなかったし、喜んだことはずっと覚えていてくれた。わたしはとっくに、彼に、ラフィットに惹かれていた。
「なぜそんなことを聞くのですか」
「なぜって、」
なぜ、……なぜ?どうしてだろう。わたしは別に彼に殺されたいわけではない。死にたいわけでも。答えを出せずに俯くと、代わりにラフィットが口を開いた。
「傷つけるのは容易い。……殺めるのも」
彼の長い指が、指と同じくらい不健康そうなその白い首をつ、となぞった。その仕草から目が離せない。男の人だと言うのに、女のわたしが見惚れてしまう程に彼は綺麗だ。妖艶、という言葉のほうが合っているのかも知れない。
「それでも生かす理由はただ、」
彼の指を目で追い続けて居ると、やがてその指はわたしの首筋を撫で上げた。指先から伝わる彼の体温に身震いし、ぞわりとした何かがわたしの背を駆けた。
「……あなたもしかして、嫉妬しているのですか」
ただ、の続きの代わりに彼が口元を歪めてそう言った。嫉妬、……嫉妬、嗚呼そうか。なんてしっくりくる言葉だろう。わたしは彼に殺される誰かに、嫉妬しているんだ。彼に愛されるのも、殺されるのも、全てわたしだけであってほしいだなんて。
「ホホホ、いつからそんな可愛い我儘を言うようになったのですか?」
彼が可笑しそうに笑う。三日月型のその唇を見ながら、さあ、とわたしも笑った。あなたがわたしを甘やかし過ぎるからだよ、とは言わなかった。きっとわたしはこれからそうして、異常になっていくんだろうね。
普 遍 的 な 愛 じ
ゃ あ 足 り な い
ただ、あなたがどうしようもなく愛しいから