「ヒロトくんの…ばかっ」
僕の親友は最低だ。
彼との出会いは中学生の頃。両親が他界して、東京の親戚に世話になることになった僕。
世渡りは、小さい頃から得意な方だった。叔父さんたちとも転校先の中学でもそれなりの生活を送っていた。話は戻って、その最低な親友は二年生のときに同じクラスになったのがきっかけだった。学級委員で成績首位。さらには、女の子によくモテるなんてオプションまでついていた。マンガのキャラクターみたいだね、というと彼は苦笑いした。
「俺、コンビニに言ってくるよ。」
嬉しそうに、昔はしていなかったメガネの奥で笑った。
「……っ、」
僕はといえば、ベッドの上でふざけた親友を見上げるだけだ。
「なにか、欲しいもの…ある?」
「……ないよ。」
「本当に?」
ちょっぴりつまらなそうに呟く彼。
「あーぁ、俺今から吹雪くんのためにコンドーム買ってこようと思ったのに。」
「そんなの、いらないでしょ…っ」
「必要だよ。だって、この部屋にあるのは吹雪くんのやつばっかりでしょ。ちょっと…小さいんだよ。」
そんな嫌味は、聞きたくない。そんなことよりも、可哀想な僕の手のなかをどうしてくれるんだ。
僕の親友は悪趣味で、ふざけて僕の性器を弄って。恥ずかしさがピークにたすころに、ぱっと手を放してあとは頑張れだとかなんだとか。
いつかには、恥ずかしさと情けなさで泣きながらオナニーしたこともある。
そんな彼はむちゃくちゃで、こんなことは高校生の頃にはなかったのに、大学生になって突然だった。社会人に立派に育った今でもたびたび遊ぶ誘いが来たと思えばこれである。
「じゃあさ、それって生でシていいってことなの?」
「はい?なにを?」
「だからね、吹雪くんのお尻に俺のちんこを…」
なに言ってるかわからない。
だいたい、入るわけがない。僕は知っている。ヒロトくんのそこが大きいのを。修学旅行で恥ずかしげもなく堂々とお風呂を済ませる彼を。そんなのが、指すら入るわけがない僕のお尻に入るわけがない。
「吹雪くん今、入らないって思ったでしょ。」
くすっ、ヒロトくんは微笑むみたいな優しい笑いかたをする。だから、女の子によくモテた。だけど、人を馬鹿にした様な嘲笑うような笑いかたもする。今のは、両方だ。
「あのね、吹雪くんが俺の指で喘いでくれれば入るよ。」
なにを馬鹿なことを。半起ちになったそこが可哀想だ。
「ていうかさ、」
「んっ、」
ヒロトくんがそこを掴んで。
「ひぇっ」
裏筋をゆっくりなぞった。僕はびっくりして目を瞑る。
「俺の気持ち、ずっと気付いてるくせにズルいよ?」
ヒロトくんは、なかなか見せない悔しそうな悲しそうな顔をして僕に言った。複雑そうな表情も似合っていて、あ…やっぱりヒロトくんはイケメンなんだと再確認。
「な、」
「知ってて、ずっと俺のこと焦らしてる。」
辛そうな、甘ったるい溜め息をヒロトくんは一吐きした。
「俺が、抱き締めたいと思った時にはドライブに行こうって言うし、」
ヒロトくんは僕の顔を見つめながら言う。
「手を繋ぎたいときは手料理を作るっていうし、」
「キスしたいときは、焼肉でも食べに行こうかだとか。」
全部、ぜんぶ俺をかわす口実なんでしょ?そういってヒロトくんはいつの間にか覚えたらしい、僕が一番弱いところに爪をたてた。
「…や!」
「俺はっ」
こんなに吹雪くんのこと好きなんだよ?押し倒したヒロトくんの腕が震えてる。
「今だって、吹雪くんにキスしたくて…抱き締めたくて堪らないのに!」
僕はくすっと笑った。たぶん、今までで一番いじわるな顔をしてる。
「ヒロトくん、男の僕に盛ったってダメでしょ?」
小さい子どもが、今にも泣きべそをかきそうな顔でヒロトくんは僕のことを見下ろしている。
「中学生だ…」
「…?」
「俺はね、」
小さい声でヒロトくんは話し出した。
「中学の時から、もう十年もずっと君に片想いしてるんだ…。」
「……」
「そろそろ、成就したっていいだろう…?」
僕のベッドには枕が三つある。僕が眠るときに使う枕と、昔の彼女が置いていった二つの枕。青い方を手に取ってヒロトくんに見せた。
「こんな時まで、ふざけないでくれよ。」
ぽたっ
青い枕に、深い青のシミができる。
ぽた、ぽた
ヒロトくんの眼鏡のレンズは、水をはって今はきっとほとんど使い物になっていないだろう。
ヒロトくんは、泣き顔すらも画になるのか。親友を少しだけ憎らしく思った。